『ポプテピピック』はクソではない 計算されたヒットの理由

『ポプテピピック』はクソではない 計算されたヒットの理由
     

サブカルクソ研究者。
英文学・言語学・メディア記号論を専攻。
新聞社を退職後、翻訳補助を通じて総合文化研究に携わるも、中の人がどオタクであった為に、研究対象は漫画、アニメ、ゲーム等に限られる。Twitter→@semiotics_labo

 

とびっきりのクソ4コマ!!

どうあがいても、クソ。

話題のサブカル4コマ漫画、『ポプテピピック』のキャッチコピーなのですが、これは自己申告であって実態ではないように思えます。

今回は、『ポプテピ』がクソではない理由を作品構造から解説していきます。

『ポプテピピック』はクソではない 計算されたヒットの理由

引用元:Comee.net

マジックのタネを見破る人達

「サブカル」の対義語をご存知でしょうか。

「下位文化」と訳されるサブカルチャー(subculture)の反対は、メインカルチャー(main culture)、すなわち、純文学、美術、音楽など教養文化を指します。

 

(スチュアート・ホールの記号論)

教養文化においては、「記号(コード)」のやり取りが行われます。

言うなれば、情報の送り手が施したマジックのタネを、教養を持った受け手が見破り、表現の奥にある真意を理解する試みです。

『エヴァンゲリオン』のブーム以降、漫画、アニメ、ゲーム等のサブカルチャーにも記号化された表現が盛んに用いられるようになりましたが、情報の解読はメインカルチャーと同様に、マジックのタネを理解する受け手の教養に一任され、どんどん難解になっています。

サブカル逆転現象

ところが、『ポプテピピック』の場合マジックのタネを見破るのは、教養ではありません。

参照されるのはメインカルチャーではなく、サブカルチャーを享受してきたオタクとしてのベースです。

作者曰く「趣味丸出しのネタ」を、サブカル知識を総動員して解読するのがこの作品の醍醐味なのであり、教養文化を嗜んできた人ほど、表現の奥に辿り着けません。

『エヴァ』では高い教養を持った評論家が、元ネタであるフロイトの精神分析をサブカルファンに教えましたが、『ポプテピ』ではサブカルファンが元ネタを検証・解説し、瞬く間に拡散されプロの評論家を出し抜くという、上位と下位の立場が逆転した、実に痛快な現象が起きているのです。

何から何まで計算ずく

では、実際にどのような表現が用いられたのか、原作とアニメを比較しながら確認してみましょう。

『ポプテピ』では、作中キャラ“ポプ子”が、出版元の竹書房を「指定暴力団」呼ばわりし、社屋を素手で殴って破壊するなど抗争の様子が定番ネタとして描かれています。

これをセルフパロディにしたのがアニメ第8話で、飯田橋(竹書房の所在地)のキーワードや、竹になった構成員(原作と同じ)から、ポプ子と出版社の抗争ネタを類推する流れになっています。

「飯田橋」
「竹」
「ヤクザの抗争」

と、二重三重に掛けられたロックは一見すると意味なシーンの連続に見えますが、情報の受け手であるサブカルファンには意味が通じるように作られています。

元ネタを知っている人達は、各々の得意分野から解読に必要な鍵を持ち寄り、解読した情報をSNSを使って直ちに全体に共有、みんなで意味を理解します。

『ポプテピ』の面白さは、受け手の共有体験を抜きには語れません。
サブカルファンの集合知による記号解読は、『おそ松さん』などでも既に見られたムーブメントです。
情報の送り手はそこに期待をし、小ネタを数多く仕込んでいるのでしょう。

つまり、ネットでの盛り上がりは想定済み。
初めから計算ずくの表現であった、という事ですね。

サブカルは下位文化か?

 

(デリダの脱構築論)

 

メインカルチャーとサブカルチャー、どちらが上位で、どちらが下位であるのか?

今から50年ほど前、フランスの哲学者デリダが、そのような二項対立の議論が無用の長物である事を説いています。

芸術作品でやりとりされる記号は知的で、サブカル作品はそうではない、と言ってしまうと、では手塚治虫や宮崎駿は知的ではないのか?と返されるに決まっています。

『ポプテピピック』も同様に、原作漫画とアニメを連動させた表現は知的な遊びとして立派に成立しており、竹書房のセルフパロディの回などは、文学で言う所のパスティーシュ(パロディ小説)との共通点も見る事が出来るでしょう。

『ポプテピピック』は、クソではありません。

高度な記号のやり取りを行うこの作品をクソだと言ってしまうと、自分が理解しえないものに根拠の無い優劣をつけて否定する事になってしまいます。
教養という価値判断に照らした時、それはデリダの哲学に反する訳です。

この作品の面白さとは、”ポプ子”と”ピピ美”の掛け合いに他なりません。
80年代以降のサブカルチャーを再構築し、新しい価値へと変えているのはまさにこの2人。
アニメより原作漫画の方が2人を中心に据えた起承転結が明確になっているので、是非お勧めしたいと思います。

まとめ

『ポプテピピック』がクソではない理由をお分かり頂けたでしょうか?

受け手の情報共有を予め想定したマジックが披露され、タネ明かししてみれば高い技術に裏打ちされていると分かる、そんな作品です。

サブカルチャーは今や、文芸小説や実写映画を完全に食い、大衆文化の本流になっています。
ゆえにパロディ作品も、参照されるベースが分厚く、引き出されるネタの数が多いです。

現在まんがライフWINにて連載中の『ポプテピピック シーズン3』では、どんな新ネタが飛び出してくるのか楽しみですね。

 

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