最高にロックなバスケ漫画。それが『あひるの空』だぜ! ※ネタバレ含む

最高にロックなバスケ漫画。それが『あひるの空』だぜ! ※ネタバレ含む
     

1982年生まれのサラリーマン。息子と娘の四人家族。
『あひるの空』の考察ブログ『あひるの空ヘビーローテーション+』(
http://blog.ahirunosora.net)
を趣味で執筆中。
ライター名の由来はそこから。
Comee mag.では『あひるの空』以外の漫画についてあれこれ書いています。

今日は僕がこの世で一番好きな漫画『あひるの空』について紹介します。

なんで、そんなに好きなのかって?

それはロックだからだぜ!

「ロック」 って何ですかって?

バカ言ってんじゃねぇ! そんなこと聞くんじゃねぇぜ! それがロックなんじゃねぇか!

日向武史による『あひるの空』は、公立高校が目標のI・H ( インターハイ )出場を成し遂げる正統派シンデレラ的バスケ漫画と思いきや、描き方はスポーツ漫画の王道をことごとく外してくる。
しかも、「友情・努力・勝利」といわれる少年漫画の王道すら走っていないように思う。
それなのに面白い。

常に読者の想像を超える演出で読者の心を揺さぶってくる『あひるの空』は、漫画を超えた音楽に近いロックであり、長く支持されている理由はそこにあると思う。

これまでの『あひるの空』のロックをトコトン語れば、きっと手に取りたくなるはずだ。

あらすじ

車谷 空、15歳。身長は149cmと低めだけど、バスケが大好き! 入学したばかりの高校でもバスケ部に入部しようと張り切るものの、そこにいたのは学校をしきる凶悪な双子とその仲間達!? こんな部で、空はバスケを続けることができるのか? そして、小柄な空が魅せる大きな翼とは!?

(C)Takeshi Hinata/講談社
引用元:Comee.net

単行本の表紙絵を描かないぜ!

『あひるの空』は単行本34巻までは通常の漫画で見られるように表紙画が描かれた単行本であった。

表紙画のカラーイラストを楽しみにしていた読者も多かったようだ。

しかし、35巻以降パタりと単行本の表紙画を描かなくなったのだ。
表紙には「あひるの空Vol.~」と副題だけが書かれた簡素ともいえるもので、タイトルロゴだけの表紙が35巻以降も続くと 「手抜きをした」だとか 、ネット界隈では色々と憶測が飛び交っていた。

引用元:Comee.net

が、ついに『あひるの空』単行本43巻で「表紙について。」として、その理由を作者 日向武史先生自身が巻末にコメントに残した。

「今はこういう時代だし。アニメ化も実写化もせず変な限定版も出さないし帯も付けない。飾りのないタイトルロゴだけのシンプルな”商品”がどれくらい売れるのかは、もう中身が面白いか面白くないかでしか決まらないんじゃないかと。決して自信があってやってる訳じゃなくてね。ある意味その逆なのです。」

引用:日向武史/講談社『あひるの空』43巻巻末

 

中身で勝負。
そういうことだったのか。
カッコイイじゃないか。

僕はこのコメントを読んだ時、日向武史先生はロックスターだと思った。
なぜなら、こんなタイトルロゴだけの漫画が書店に平積みされていても、タイトルがバスケとは無縁のタイトルなだけに『あひるの空』を全く知らない人には表紙を見ても何の漫画なのかもPRされることはないだろう。
「読みたいやつだけ、手に取りな!」と言わんばかりにぶっきらぼうで反抗的なこの表紙が、商業支配の構図に対してアーティストが異議を唱えるロックの原型そのままのように僕は感じたからだ。

単行本のイラストを楽しみにしていたこれまでの読者すら離れてしまいかねないタイトルロゴだけの表紙の挑戦は、35巻から10巻以上発売されている今もまだ続いている。
小細工をせず、シンプルに作品に向き合って欲しいという思いだけで、こんな大胆なことをしてしまう漫画を今まで見たことがあるだろうか。

バスケ漫画ということを忘れるくらい音楽が聴こえてくるぜ!

作者 日向武史先生は無類の音楽好きであることを公言し、それを創作の活力としているという。

「僕のipodには『あひるソング』というプレイリストが作ってあり、それを聞きながら日々創作を行っています。」

引用:日向武史/講談社『あひるの空』 ,62頁

 

ストーリーの中には楽曲にインスピレーションを受けて創り上げられたストーリーも数々登場する。

中でも僕がオススメしたいのは『あひるの空』39巻の描き下ろしストーリー「ふわりのこと」だ。
是非これは女性ロックバンド”ねごと”の楽曲『ふわりのこと』を聴きながら読んでもらいたい。
日向武史先生なりの楽曲の理解が、見事に『あひるの空』の世界に落とし込まれている。

例えばこのシーン。

引用:日向武史/講談社 『あひるの空 EARLY LAST DAYS』39巻,179頁

ねごとの歌詞では《最近のきみといえば生き物や花を育て始めた 他にすることないのと聞けば 大切なことなんだよって言った》となっている部分であり、見事にシンクロしている。
あたかもショートムービーを観ているような錯覚さえ覚える。

このように、『あひるの空』はバスケ漫画ということを忘れるくらい音楽が聴こえてくる、聴かせてくるバスケ漫画なのである。

漫画なのに”ベスト盤”を出しているぜ!

もう絶版になってしまっているが、『あひるの空』には漫画なのに音楽アーティストが発売するような ”ベスト盤” が存在する。

それは日向武史先生チョイスの思い入れのあるストーリーが収録されている単行本で、日向武史先生がいつかやりたいと言っていたことが実現されたのが『あひるの空 BEST SELECTION+』という単行本だ。

その発売のタイミングがたまたま東日本大震災と重ったのか、 東日本大震災をきっかけに日向武史先生自身が「何かを」と考えて実現されてのかはわからないが、「SPECIAL EDITION 1」として描き下ろされた「土を踏む」というストーリーは、東日本大震災で苦しむ読者に向けて日向武史先生が伝えたいことがギュっと詰まったストーリーとなっている。
もう中古書店でしか手に入らないが、震災からしばらく経った今だからこそ、あの時を忘れないために、是非皆さんにも読んでもらいたいストーリーだ。

そしてこれもまた凄い話なのだが、震災時多くのアーティストがそうしたように『あひるの空 BEST SELECTION+』の売上も、すべて東日本大震災の義捐金として寄附されるとしていた。

もうやることがロックスターすぎるっしょ?

“九頭龍高校”を全然勝たせないぜ!

ストーリーはというとこれまたロックだ。

お前たち、そんな易々と勝たせねぇぜ! と言わんばかりに、主人公たちを全然勝たせない。
”九頭龍高校”が勝ち星をあげたのは、単行本でいうと19巻、連載から約4年経ってやっとだ。

たしかに、バスケ部が結成して数か月の無名校が、3年間厳しい練習を乗り越えたチームに勝てるはずがない。
現実なら当然だ。

ただ『あひるの空』は漫画の世界。
もっといえば、スポーツ漫画の世界だ。
無名校が強豪校を倒すことがスポーツ漫画の王道であり、勝利こそがスポーツ漫画のエンターテイメントだ。
なのに、『あひるの空』は現実をみせる。

努力は絶対裏切らないという、スポーツをやっている人ならそう信じたい理想をことごとく打ち砕いていくのだ。
これが、明日は忙しくなると信じて、無名のロックバンドが客入りの少ないライブハウスでロックを奏でるそれに似ているように僕は思う。
誰かに響けよ!とかき鳴らすギターも、結局は誰にも響かないで終わるものがほとんどなのだろう。
ロックスターを夢見て一途にロックを奏でる姿と、無名校が恥ずかしげもなくI・Hを目指す姿がどこかリンクするように思えた。

演出だけじゃない、ストーリーも『あひるの空』はやはりロックなんだ。

最終回を先にやっちゃうぜ!

極めつけは、『あひるの空』の代名詞ともいえる単行本39巻の展開だ。
39巻を開いて、ほとんどの『あひるの空』読者に戦慄が走っただろう。

38巻までは、”九頭龍高校”が I・H 出場を目指し、死闘の末、地区大会から県大会へと駒を進めるか、進めないかの残り10秒のフリースロー1投目成功、2投目・・・で終わっていた。

無論この戦いには勝つわけだが、さぁ弾みをつけて県大会も快勝快勝で決勝まで行くものだと誰もが思っていたはずだ。
しかし、39巻の冒頭で、《 俺たちはI・Hに行くことはできなかった 》と、青春の全てを注いでいた戦いがストンと終わっている描写から始まったのだ。
要するに結果を作者自身がネタバレするという、少年スポーツ漫画では前代未聞の展開を始めた。
読者は困惑し、県大会は描かれないまま『あひるの空』は最終回を迎えるとまで思った読者は沢山いた。

その意図についても、日向武史先生は39巻の巻末コメントとしてこう綴っている。

「これはあひるの空の最終回。だけどもまだ、結末より大切なシーンがこの先に待っている。」

引用:日向武史/講談社『あひるの空』 39巻巻末

 

こうして39巻以降は最終結果が分かっていながら県大会が進められていく。どうせ負けるんでしょ? と最終回を見ずして『あひるの空』から離れたファンも少なからずいたと思う。
たしかに結果がすでに分かっているスポーツ観戦ほどつまらないものはない。
けれども、先にもお伝えした通り『あひるの空』はアリが象を倒すだけのスポーツ漫画ではない。
それを形にしてしまったのが、最終回の先出しという演出だったのだ。

僕もそれからは勝ち負けに目を向けなくなった。
その代わりに、一戦一戦、一コマ一コマの人間ドラマに目を向けるようになっていた。
俺のロックを隅々まで堪能しろ! と言わんばかりの咆哮を一冊一冊に感じるのだ。
その咆哮をどう受け止めるかはロックを聴く観客と同じように、どう捉えても自由なのだ。勝ち負けは分かっている。
じゃあどこに目を向ける? 画を見る人、セリフの意味を考える人、コマの細かい小ネタを漁る人、人それぞれ読み方が変わるのだ。

それが本当の『あひるの空』の楽しみ方なのだ。

まとめ

想定外の展開を次々と巻き起こす『あひるの空』をロックと言わずして何と言えばいいんだ。

バスケ漫画の殿堂入りともいえる位置づけとなっている井上雄彦先生の『SLAM DUNK』とは、比べることができないバスケ漫画の位置づけを確立した漫画、それこそが『あひるの空』である。

40巻を超える長編となっているので1巻から読むのは…と躊躇うのであれば、表紙を描かなくなった35巻からでもいい。
ぜひ手にとってみて欲しい。
読み進めていけばきっと1巻から読み出すことになるだろう。
『あひるの空』の最高のロックは1巻から始まっているのだ。

 

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