正反対の2人の”ナナ”。『NANA』をジェンダー論から考察してみた。 ※ネタバレ含む

正反対の2人の”ナナ”。『NANA』をジェンダー論から考察してみた。 ※ネタバレ含む
     

サブカルクソ研究者。
英文学・言語学・メディア記号論を専攻。
新聞社を退職後、翻訳補助を通じて総合文化研究に携わるも、中の人がどオタクであった為に、研究対象は漫画、アニメ、ゲーム等に限られる。Twitter→@semiotics_labo

少女漫画の不朽の名作、『NANA』。

矢沢あいによる作品で、同じ名前の2人の女性が理想の自分を追い求める漫画作品です。

今回は、ジェンダー論の観点から見た『NANA』の作品構造について纏めてみました。

正反対の2人の”ナナ”。『NANA』をジェンダー論から考察してみた

大崎ナナ~女性の主体

引用元:Comee.net

ロックバンド・ブラストのボーカル“大崎ナナ”は女性の主体として描かれます。

音楽でひと山当てる事を夢見て上京し、先にメジャーデビューした恋人を追いかけて夢の階段を駆け上がっていきます。

ナナは男性への従属を強く拒絶し、逆に恋人の首に南京錠をかけて支配しようとします。
この南京錠はパンクロック界のカリスマ、シド・ヴィシャスのオマージュであると同時に自分が主人である事を象徴するアイテムです。

男性に屈服した証である子供を授かる事を畏れ嫌い恋人がいる時は避妊薬(ピル)を欠かさず飲むようにしており、夢の障害となりうる要素を徹底的に除きます。

小松奈々~男性の客体

引用元:Comee.net

もう1人の主人公”小松奈々”は、男性の客体として描かれます。

作者・矢沢あいの代表作である、『ご近所物語』や『パラダイスキス』で否定されてきた男性に依存する主体性の無い女性であり、庭付き一戸建ての家に住む夢を結婚相手に叶えてもらう事を望んでいます。

極度の恋愛体質である奈々は、男性に愛される瞬間だけ幸福を実感できます。
失恋する度に心にぽっかりと穴が空き、仕事では決して埋まらない為、拠り所を求めて次々と移り気していきます。

矢沢あいファミリーの中でも異質なキャラです。

主客一体の女性像

女性の主体であるナナと男性の客体である奈々。

707号室でのルームシェア生活ではそんな2人の主客が合一します。

仕事で成功する夢はナナに託し結婚して子供を産む夢は奈々に託す。

お互いの不足している半身を埋めあう事で、主体性と客体性のバランスが取れた理想の女性の生き方へと進んでいきます。

 

※ここからネタバレ

 

ところが、707号室の2人の間に男性の支配者”一ノ瀬巧”が割って入ります。

タクミは小松奈々を妊娠させて自らの支配下に置き、ルームシェアを強制的に解消させます。

大崎ナナにとって最も畏怖する妊娠という手段でもう1人の半身である奈々を屈服させているのですから、自分が男性に従属したも同然の出来事です。

奈々に庭付き一戸建ての家をプレゼントするのは男性ではなく、主体性を発揮した女性の自分でなくてはならなかった。

この時点でメジャーデビューが決まっていなかったナナには為す術がありませんでした。

『NANA』で描かれるのは、主客一体となった女性像であり仕事と結婚の両立に苦しむ現代の女性に、「女性らしさとは何か?」と強く訴えかけています。

自由精神の発露を目的に始まった女性解放運動はいつしか女性らしさを否定するようになりましたが、矢沢あい作品ではどの主人公も自分の夢の実現の為に主体性を発揮しつつ、女性らしい生き方を手放してはいません。

2人のNANAの主客関係はコインの裏表のようにどちらも欠かす事の出来ない要素なのでしょう。

まとめ

いかがでしたか?

今回は『NANA』の作品構造をジェンダー論の観点から纏めてみました。

前の21巻が発売されたのが今から9年前になります。
その間、女性を取り巻く環境は改善するどころか息苦しさを増したようにも感じます。

だからこそ、前向きに生きる女性を描いた漫画が読者の心に深く刺さるのだと思います。

続きが気になる22巻の発売前に一度、1巻から読み返してみるのも良いかも知れませんね。

 

幸せの名をもつ少女が自らの意志で、運命を、切り拓く…。小松奈々と大崎ナナ…同じ名前を持つ2人の少女が繰り広げる、感動の恋のストーリー! 2人の「ナナ」、それぞれの幸せはどこにある…?

(C)矢沢漫画制作所/集英社
引用元:Comee.net

 

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