友人の結婚式があった。
僕は高校時代バスケ部だったのだが、バスケ部の仲間内では最後となる結婚式だった。
残り物には福があるとはよくいったもので、彼はモデルさながらの年下のCA(キャビンアテンダント)と結婚をした。
僕ら元バスケ部連中が集められた披露宴の席は、めでたい席であるにも関わらずいつもの飲み席のように下ネタを繰り広げていた。
男どもは、ひとたびスイッチが入ると飽きることなく永遠と下ネタを言っている。
しかし、10代、20代の頃のただただ隠語を並べた下ネタとは違い、30代ともなれば下ネタにも品が出てくるのは、年の功といっていいのだろうか。
今回ご紹介したい『荒ぶる季節の乙女どもよ。』は、見方を変えれば下ネタのオンパレードだ。
ただ、そこにある下ネタには品があり、30代の僕らが飲みの席で繰り広げられるそれに近い。
だから、この歳になっても『荒ぶる季節の乙女どもよ。』は読んでいて心地がいいのだ。
『荒ぶる季節の乙女どもよ。』とは
あなたの“はじめて”を、わたしにください──。和紗たちは文芸部に所属する女子5人。部が「死ぬ前にしたいこと」という話題で沸いたある日、部員の一人が投じた「セックス」の一言……。その瞬間から、彼女たちは“性”に振り回され始める。
(C)Mari Okada・Nao Emoto/講談社
引用元:Comee.net
原作・岡田麿里、漫画・絵本奈央による漫画作品で文芸部に所属する5人の女子高生が「性」に振り回され、悩む様子が描かれています。
思春期真っ盛りの少女達の心の中をコミカル、時々シリアスに描いています。
「品のある下ネタ」を定義づけておこう
披露宴会場の新婦側はもちろんほとんどがCAで、CAだから綺麗なのか、綺麗だからCAなのか分からないが、綺麗な女性ばかりだった。
元バスケ部友人A:「お前、どの子がタイプだよ。あそこ、みんなCAだろ?」
新郎の彼以外、僕ら側の人間は皆既婚者なのでだからどうするわけでもないのだが、「どの子がタイプ談義」は毎度のこと行われる。
僕:「あの子だな。紺色の服を着た子。25,6ってとこだろ」
僕はそう答えた。すると友人Aは怪しげな笑みを浮かべてこう言った。
元バスケ部友人A:「そんなあの子も夜は過激かもしれねぇぜ」
僕:「どういうこと?」
僕はあっ、下ネタだなと思い、謎解きをしながら聞き返す。
元バスケ部友人A:「あの航空会社のCAだろうが! Lを付けてみれば分かるだろ」
もうこれ以上はココには書けない(笑)
こんな会話もあった。
1卓だけ元バスケ部だけの席ではなく、新郎の大学時代の友人と同席の席があり、僕はその席にいた。
一緒になった新郎の友人3人が皆男だったことに僕らは少し落胆したが、彼らを僕らの土俵に上げるにはものの数分もかからなかった。
元バスケ部友人B:「仕事は何を」
僕ら側から社交辞令の一言を交わす。
大学の友人:「システムエンジニアです」
大学の友人の1人がそう答えた。
元バスケ部友人B:「じゃあ夜は×(バツ)ですか?」
僕も一瞬、言っていることが分からなかった。
SEは徹夜が多いと聞くけど、そういうことか? とも思った。
彼はまた繰り返し言う。
「昨日の夜も×ですよね?」
今度は人差し指と人差し指をクロスさせながらそう言っている。
元バスケ部友人B:「昼間はSE。夜はそれにバツがつくんですよね?」
相手に伝わらなさ過ぎたのか、どうにか自分の土俵に持っていこうとしたのか、友人Bは自分でタネ明かししてました(笑)
男どもは単純なもので、これで同じ釜の飯を食ったかのように打ち解けてゆくものなのです。
つい小一時間前に会ったばかりなのに、十数年来の友人だったかの如くこの円卓も大いに下ネタで盛り上がりました。
話は披露宴会場に入る前に戻る。挙式を終え、全員写真を撮ろうという時の話だ。
100名近い列席者がいたため、列席者は階段を使いながらカメラに収まるようにと整列を式場関係者に指示された。
元バスケ部友人C:「おい、あの子見えそうだぞ」
友人Cが言う。
彼の言う方向を見ると、階段へ誘導された女の子が膝上20㎝ほどのミニスカートのドレス姿だった。
そして、もう一人が言う。
元バスケ部友人D:「あれはイナバだ。俺はもうすでにチェック済みだ」
名前ではない。
これは列席者で密集した中で僕らの品位を保つべく使われた比喩であることはすぐ分かった。
なんとなく嫌な予感はしたが、それでも僕らはあのミニスカートと太腿との間に全神経を注いでいた。
やはり「イナバ」だった。
つまり、B’z稲葉浩二氏の代名詞とも言える短パンをそのミニスカートの下にはいていたというわけだ。
僕らは落胆と爆笑で崩れ落ちた。
さて、これまで紹介した下ネタに品があるかどうかは個人差があると思う。
しかし、ここでは直球でない相手に想像させる下ネタを「品のある下ネタ」と定義付け、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』の下ネタの魅力をご紹介したいと思う。
ホワイトボードを見ればわかるやん!品のあるやつやん!
『荒乙』(←こう略すらしいです)では、こうした品のある下ネタが伏線を張りながらふんだんに散りばめられている。
そして、その伏線は見事なまでに華麗に「エロス回収」され、僕らの飲みの席を上回る笑いを提供している。
下のホワイトボードを見てほしい。『荒乙』1巻の終盤である。
引用:岡田麿里 絵本奈央/講談社『荒ぶる季節の乙女どもよ。』1巻191頁
この意味不明な言葉がリストアップされた経緯を説明しておく必要があるだろう。
これは、純文学作品を語る上でどうしても性交の話題を避けることができない場合、部内では直接的ではない「代用となる言葉を」と文芸部部長 ”曾根崎り香”が提案し、部員たちがそれぞれ挙げた代用の言葉の候補である。
僕はこのホワイトボードに挙げられた言葉にこそ、『荒乙』の品の良さが詰め込まれているように思った。
なので、『荒乙』の下ネタの品を語るにはこのホワイトボードを見てもらうのが手っ取り早い。
作中では一つ一つ「その心は」と代用の言葉たちに解説されてはいなかった。仕方がない、ここは僕が代わりに一つ一つ解説を加えてみるしかない。
「アンダー・ザ・C」の解説
A:キス
B:ディープキス
C:お触り
D:本番
あのABCの線引きはどこかで取り決めがあったわけでもなく、どういうわけか若者の間で伝承されていくアレ。
Cの下。
そういうことだ。
ディズニーの名作『リトル・マーメイド』の楽曲とかけている辺りが何とも言えずセンスがいい。
これに続けて僕らの誰かが「私は”アリエル”の貝になりたい」と言い出すだろうな。
「種まき」の解説
野良仕事に例えるパターン。
その心は…生を生み出す行為といったところだろう。
僕ら元バスケ部の中には未だに色々な「畑」に「種まき」をしている輩がいる。
彼を引き合いに出すのは忍びない。
というのも、大学在学中にいわゆるできちゃった婚をし、つい最近離婚をしたからだ。
しかし、彼の性春は今まさに謳歌し、女子大生と合コンをしては「種まき」をしまくっていると聞く。「イナバ」と言ったのは他でもない彼だ。
「性戦」の解説
結婚式での僕ら醜態を見ていたければお分かりいただけると思うが、僕ら男どもは常に女どもを性戦に持ち込みたいと思っている。
これは僕らだけに限ったことでない、全世界の男どもは頭の中はこの戦のことばかり考えている。と思う。
ところが、『荒乙』を読むと性戦への暴走は男ども特有のものではなかったと思わざるをえない。
未だ半信半疑であるが、原作 岡田麿里先生・作画 絵本奈央先生の女性タッグで描いているのだからそうなのだろう。
要するに、この戦は世界大戦なのである。「性戦」とはなかなか深い代用語を考えたものじゃないか。
「さすまた」の解説
ホワイトボード中の「性戦」の下、残念ながら”菅原新菜”の頭で文字か隠れてしまっているが、ココには「さすまた」とある。
元の意味する物体が分からない人もいる思うので補足しておこう。
相手の動きを封じ込める武具及び捕具。 U字形の金具に2-3メートルの柄がついており、金具の部分で相手の首や腕などを壁や地面に押しつけて捕らえる。
[Wikipediaより]
僕も実物は見たことがないが、僕ら元バスケ部にはさすまたを実際に使うであろう警察官もいる。
そんな彼なら「さすまたで押さえつけて、俺の警棒で”さすまた”」と早くも応用を効かせた用例を披露することになるだろう。
「サックス・シックス・ソックス」の解説
「いっぱい」の「い」を「お」に替えて言ってみぃ!
よく小学生の頃そんなことを言っていた。
「スックス」の「ス」を「セ」に替えて言ってみぃ!
と飲み会で使えるネタを思いつく。
僕ら(「僕ら」としておく)は小学生の頃と何ら変わっていないということだろうか。
「性的愚者と怨嗟と罰」の解説
これは部長 ”曾根崎り香”が提案したもの。
実にTHE文芸部なワードだ。
ちょっと待って! ホワイトボードにはないじゃない?
と思うかもしれないが、取消線が引かれている部分がそれだ。
ここに至るくだりは思わず吹き出してしまった。
なぜ取消線が引かれているのかは、ぜひ本編を読んでいただければと思う。
「#荒ぶる乙女の言い換え方」で代用の余韻に浸ることができるぞ。
これら代用の言葉の余韻に浸りたい方は、Twitterのハッシュタグ「#荒ぶる乙女の言い換え方」で続きが見れる。
続きといっても、読者が考えた言い換えではある。
そこに集まった言い換えを眺めていると思わずクスっ笑ってしまうのは僕だけでないと信じたい。
まとめ
「えすいばつ」
文芸部らしい素晴らしい別名に決定がなされた。
『荒ぶる季節の乙女どもよ。』はこの《えすいばつ》に翻弄される乙女どもの物語なのである。
結局、代用の言葉が上で話した「システムエンジニアの話」に近いものとなったのは、僕らが”乙女ども”と同じレベルで、従順で、無垢で、文化芸術的に優れているということにしておきたい。
僕らが文芸部の部室に赴いてもいいが、是非『荒乙』の”乙女ども”と飲みの席で同席したいものだ。
朝まで華麗なる下ネタトークのキャッチボールで腹筋は崩壊されること間違いない。
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