『海月姫』や『主に泣いてます』、『ママはテンパリスト』など、ヒットメーカーとして知られる東村アキコ。
その作風は変幻自在。
高い批評眼から生み出されるキャラクターと、キャラを最大限に活かすプロット(お話作り)によって、作品をいかようにも変化させられる特徴があります。
ところが、『東京タラレバ娘』はそうした特徴とは異なります。
昭和生まれの30代女子を「東京タワー」、平成生まれの新世代を「スカイツリー」に見立てた、古い物が新しい物に取って代わられる物語構造は、1巻の1コマ目から揺らぐ事なく、最後まで一貫しています。
『主に泣いてます』では子泣きじじいのコスプレをする美女を、『メロポンだし!』ではグリーゼ581からやってきた宇宙人を描いていた変化球主体の漫画家が突然、インハイのコースめがけて剛速球を放り込んできたのですから、脳天をかち割られ悲鳴を上げるアラサー読者が後を絶たなかったのです。
なぜ、このような強いメッセージが投げかけられたのか?
『かくかくしかじか』とのある共通点から、答えを探っていきましょう。
『東京タラレバ娘』と『かくかくしかじか』の共通点
「王子様」が不在
引用元:comee.net
『東京タラレバ娘』から9年前、週刊スピリッツで女性漫画家・朔ユキ蔵の『ハクバノ王子サマ』という作品が連載されました。
32歳のお局様が務める女子高に、7歳年下の男性教諭が新任してくる、というお話で、男性がお局様を「ストライクです」と宣言して食事に誘い、お局様はそれを居酒屋に集まった女子会で報告します。
アラサーの独身女性に、年下の王子様が現れるのはひと昔前。
『タラレバ娘』では、33歳になったヒロインの”鎌田倫子”らアラサー3人娘が、
「酔って転んで男に抱えてもらうのは25歳までだろ、30代は自分で立ち上がれ」
引用:東村アキコ/講談社『東京タラレバ娘』1巻 62~63頁
8歳年下のイケメンモデル”KEY(鍵谷春樹)”から、王子様が不在の現実を突きつけられます。
倫子たちはその後も、元カレのセカンド、妻子持ちとの不倫と、次々とハズレくじを引いていき、男も仕事も若い競争相手に奪われていた事に気付きますが、時すでに遅し。
東京タワーはスカイツリーに役目を引き渡し、6年後の東京五輪=40代は間近に迫っていたのでした。
『ハクバノ王子サマ』では、20代の女性を「何かが出ている」ボーナス加点の期間とし、20代後半以降から加点が減り、30代からは持ち点だけで戦うと定義されていました。
今年2月には、実際に「ラクトン」という香気成分が出ていて、30代以降の女性で大きく減少している事が、ロート製薬の研究で明らかになっています。
引用:ロート製薬 http://www.rohto.co.jp/news/release/2018/0214_01/
KEY君の毒舌は、時の残酷さを読者に告げる役割を担っており、
「あてのない未来に身を委ねてるヤツらに腹が立つ」
引用:東村アキコ/講談社『東京タラレバ娘』7巻 73頁
と、ボーナスタイムが終わっても高止まりをする女性に、強烈なダメ出しを行います。
『東京タラレバ娘』のKEY君
引用元: Comee.net
KEY君には、倫子たちと同じ33歳でこの世を去った、14歳年上の愛妻が居ました。
スカイツリーに象徴される新世代でありながら、彼は東京タワーに詰まった死別の記憶を7年間ずっと引き摺っています。
『東京タラレバ娘』の連載開始は2014年ですので、そこから7年前は2007年。
スカイツリーの建造(2008年着工)はまだ始まっていません。
KEY君が見ている東京の街には、スカイツリーの景色がどこにも無く、東京タワーだけが建っていた頃から、時間が止まっているのです。
彼は居酒屋に入り浸っては無為な時間を過ごしている33歳の倫子に、亡き妻の面影を重ねます。
KEY君は、作者・東村アキコの代弁者でもあります。
東村アキコの自伝作品『かくかくしかじか』に、
「私って私生活がそのまんま漫画に出ちゃう典型的なタイプだな」
引用:東村アキコ/集英社『かくかくしかじか』4巻 138頁
とあるように、彼の台詞には、作者本人が経験した後悔が強く滲み出ていますよね。
両作品の連載期間は1年ほど重なっており、
かくかくしかじか 2015年3月完結
東京タラレバ娘 2014年4月開始
『かくかくしかじか』の最終巻には故人の思い出と一緒に、東京タワーが何度も描かれています。
時間や記憶のうつろいが、古い電波塔の描写からは感じられます。
『東京タラレバ娘』は、自伝で書き足りなかった思いのたけを、創作という形で届けた、作者渾身のストレートボールなのです。
『かくかくしかじか』の日高先生
引用元: Comee.net
『かくかくしかじか』の”日高健三”先生(本名・日岡健三)は、東村アキコをはじめ、はるな檸檬、吉富昭仁ら多数の漫画家を輩出した絵画教室の恩師です。
2001年に肺ガンを宣告、2003年春に左目に転移の後、同年8月19日、57歳で亡くなっています。
KEY君が作者本人を反映しているとしたら、日高先生への感謝と惜別は、KEY君の亡き妻”沢田曜子”に女医の役割を与え、「先生」と呼ばせた所に見て取れるんじゃないでしょうか。
自伝の中で、
「でも、やっぱり考えてしまう」
「あの頃のバカな私が、貴重な時間をどれだけ無駄にしてたのかってことが」引用:東村アキコ/集英社『かくかくしかじか』5巻 59頁
このように綴られていた作者の思いは、
「あんたに教えてあげたかった、人間はいつか死んでしまうんだってことを」
「今日という一日がどれだけ大事かってことを」引用:東村アキコ/講談社『東京タラレバ娘』9巻 16~17頁
創作の中でも、KEY君のこの台詞に繋がっています。
コスプレ美女や宇宙人には、先生のメッセージは託せなかった。
東村アキコの漫画作品群において、『東京タラレバ娘』だけ特徴が異なるのは、フィクションだけれど嘘じゃない、真実の重みがこの作品にあるからでしょう。
筆者は『タラレバ娘』を、『かくかくしかじか』から続く連作だと思っています。
読者の皆様には是非、両方ともおすすめしたいです。
まとめ
『東京タラレバ娘』と『かくかくしかじか』は、1日という時間を後悔なきよう、大切に過ごして欲しいというメッセージで共通しています。
30代で後悔しない為には、20代での積み重ねが重要である。
東村先生の人生哲学を感じさせる作品です。
特に『東京タラレバ娘』には、漫画家として20年近く積み重ねられた実績が顕著に表れています。
東村先生の今後の活躍にも期待しましょう。
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