戦時中の広島で暮らす一般市民をリアルに描く『この世界の片隅に』の魅力に迫る

戦時中の広島で暮らす一般市民をリアルに描く『この世界の片隅に』の魅力に迫る
     

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2016年にアニメ映画も公開されて大ヒットを記録した『この世界の片隅に』という作品を、皆さんはご存知でしょうか?

終戦から長い年月が過ぎ、年々戦争について少しずつ風化しているのではないか? と危惧されています

今回は戦時中の一般市民がどのような生活を送っていたのか、今作品から学んでいきたいと思います。

作品紹介とあらすじ

平成の名作・ロングセラー『夕凪の街 桜の国』の第2弾ともいうべき本作。戦中の広島県の軍都、呉を舞台にした家族ドラマ。主人公、すずは広島市から呉へ嫁ぎ、新しい家族、新しい街、新しい世界に戸惑う。しかし、一日一日を確かに健気に生きていく…。

(C)こうの史代/双葉社
引用元:Comee.net

戦時中の日常生活

本作はこうの史代が手がけ、漫画アクションにて2007年から2009年にかけて連載された、単行本では全3巻と比較的短い作品です。

主人公の“浦野すず”(結婚後は北条すずに名字が変わる。この記事では以下すずと表記)は広島県広島市で生まれ育った、少し抜けている天然ボケがかわいらしい女性です。
すずはある日、広島県呉市に暮らす“北条周作”の元へと嫁ぐことになります。
この時、すずは周作の顔も知りません。
そんな状況で相手の元へ嫁いでいくのが普通であった描写に、戦中の結婚に対する意識が現代と大きく違うことがわかります。

周作はすずを大切にしており、北条一家も暖かく迎え入れます。
小姑の径子は少し厳しく接しますが、それも持ち前の天然ボケでうまくかわしていきます。

楽しく暮らしており、特に問題もないような日々……
しかし、戦争の影は少しずつこの家にも近づいており、やがて激しい空襲にさらされることになります。

アニメ映画も大ヒット

本作をアニメ映画で知ったという方も多いのではないでしょうか?

片渕須直監督は「すずさんを現実の広島に存在させたい」という思いのもと、緻密な時代考証を行っています。
これはこうの史代の原作が優れている点でもありますが、本作は時代考証がとても緻密です。戦時下の市民の生活や、実際に食べていたものや配給の様子などを調べ上げて、詳しく日常生活を描いています。
アニメ映画はさらに緻密に調べ上げて、その日の天気や呉市の軍港に停泊していた船も全て描いています。

その結果、アニメとは思えないほどの強烈なリアリティを獲得し、それが大ヒットにつながりました。

こうの史代の試み

一方、原作のこうの史代の試みもまた、漫画だからこそできるものです。

最も特徴的なのは連載の方法です。

本作は平成20年前後に連載されていますが、作中での日付と現実の時間が元号を変えるだけで一緒になるように描かれています。
例えば昭和20年3月の物語であれば、平成20年3月に掲載される、といった連載方法です。
この連載方法によって、昭和と平成の違いこそあるものの、現実と同じ20年の同月、作中の出来事がすずの身に起こっていることが伝わりやすくなっています。

これは物語の内容と現実の連載計画を緻密に練り上げ、しかも遅れないようにしっかりと描かなければいけません。
さらに、本作は時代考証や物語としての面白さもしっかりと練り上げており、まさしく驚異的という言葉以外ありません。

本作は戦時中の広島、呉市に暮らす普通の主婦であるすずを主人公とすることで、一般市民の主婦がどのように生活し、戦争に巻き込まれていくのか、克明に描かれています。
その結果、戦争の恐ろしさを一般市民の目で体感することができ、名作の評価を得るまでに至りました。

まとめ

いかがでしたか?

戦争漫画というととても重い、読むのも辛い作品を連想する方も多いかもしれません。
本作もそのような一面があるのも事実ですが、それ以上にすずをはじめとした登場人物たちの日常が面白おかしく描かれており、当時の日常系漫画として楽しめる作品でもあります。
だからこそ、その日常が破壊されていく様子に恐怖心を抱きます。

この夏、戦争を知るには最適な一作です。
ぜひ手にとってみてください。

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