コンビニは僕を悩ませる。
「商品の最先端」が集うコンビニにせっかく来たなら、その最先端を買わなければ損!
という損得勘定が働いてしまう。
これだから悩む。
例えば、飲み物を買う時。
ずらりと並べられた色とりどりのペットボトルの前で僕は悩む。
テッパンの『おーいお茶』を迷わず手に取る妻の傍らで、ショーケースのドアを開けてはずらりと並ぶ商品を見て悩み、閉じたと思えば、次のショーケースを開けて中身を吟味。
いよいよ「開けっぱなしで迷うのやめなよ」と妻に小言を言われ始める。
(ガラス戸が曇って見えへんがな…。)
結局またドア開けて悩む。
そんなこんながあって、やっとのことで今日の1本を決めるのだ。
パッケージだけで決めるには勇気がいる。もちろん今日はコレだ!と息込んで買った飲み物がハズレだったこともある。それこそ、漫画の帯のように
「肉食男子アリマス。」
⇒マテ茶(なんとなくw)
「好きです。え!?まさかの告白」
⇒ピルクル(結構好きな女子いると思うけどな)
「お前は俺の犬になれ。」
⇒缶コーヒーBOSS(あの髭男に言われたい)
※()内は僕の言葉です。
みたいな帯が付いていれば迷わず手に取るんだけどな(笑)
好きになった作品を深く読んで知るタイプの僕だが、最近、そのコレクションを増やすために新規開拓を始めている。
そこで僕はコンビニでそうするように、書店に行って”漫画のジャケ買い”という冒険も始めてみたのだ。
今回はそんな記念すべきジャケ買い作品第1号を紹介しようと思う。
今回のジャケ買いポイント
初めてのジャケ買いは、コンビニで悩むように、悩みに悩んだ。
おそらく1時間くらいは書店の漫画コーナーをウロウロしていたと思う。
手にとっては帯を見たり、裏表紙みたり、遠目で見てみたり。
僕が店員なら完全に書棚を整理するフリしてぴったりと「彼」をマークする。
そして、「怪しげな男性が漫画コーナーの前で不審な行動をとっています。”ヤル”かもしれません」と内線で不審者情報を流しただろう。
それくらい挙動不審で漫画コーナーに長居して、僕はついにピンとくる1冊と巡り合った。
石井明日香先生の『ひさかたのおと』だ。
小笠原周辺の小さな島「青島」に赴任することになったカタブツ教師・巽(たつみ)は、自分の常識では計り知れない現象にあう。それはいつからか忘れてしまったような、自然のもたらすあたたかいファンタジー。彼は歓迎されているのか、それとも……? 青い島がいざなう、五感の向こう側。それは日常に紛れそびれた、ほんの一瞬の奇跡。
(C)Asuka Ishii/講談社
引用元:Comee.net
まず、今回僕がジャケ買いしたポイントをまとめておきます。
ジャケ買いポイント① 圧倒的「青感」
あなたの好きな色は?
と問われれば、「青です」と僕は答える。
「青」が好きと言っても、もともとは「藍色」が好きなところから始まった。
藍色は日本の伝統色であり、海外では「ジャパン・ブルー」とも言われる色。
「日本の伝統色」とか言われちゃうと日本人心がくすぐられる。
だから僕は藍色に惹かれ、デニムに始まり、洋服やら雑貨やらは藍色のものが増えていった。
しかし、今では青系ならオールOK!というズボラ感を発揮し、好きな色は青色だ。
『ひさかたのおと』1巻の表紙を見ていただければ分かる通り、表紙の圧倒的青感。
色々な青で描かれた表紙はそうした意味で僕のどストライクだった。
背表紙にもその青は漏れ、書棚に背中を向けて収められていたにも関わらず他の漫画にはない存在感で一際目立ち、僕にアプローチをかけていた。
「青」が僕と『ひさかたのおと』をめぐり合わせたといっていいだろう。
ジャケ買いポイント② 「海」が描かれてるだけでポイントUP。
表紙には海が描かれている。
それだけで「おっ!」っと僕のポイントが上がった。
なぜなら、僕は海が好きだからだ。
山に住んでいる自分だからこそなのかもしれないが、海はちょっと遠出しないと行けない所というプレミア感。
海は”非日常の究極”という位置づけが僕の中にある。
『ひさかたのおと』の表紙の青色は、空と海なんだと気づいたのは、手に取ってしばらく経ってからだった。
「青」が引き金となったのか、はたまた「海」がそうだったのか、とにかくこのダブルパンチで僕はまんまと『ひさかたのおと』にノックアウトされた。
ジャケ買いポイント③ 滲み出てるシャレオツ感
僕をノックアウトし魅了した作品は、手に取ってみて確信に変わる。
表紙のザラザラの質感が、本物の画用紙に絵具で描かれた絵のような演出を生んでいた。
制作者側もこの表紙にはこだわりをみせたようだ。
新年早々嬉しいことに、三日後1月5日は『ひさかたのおと』1巻発売日です!カバーの原画の色を再現するため凸版印刷の職人さん達が腕を振るって下さいました。暖色はもちろんのこと、印刷で再現しにくい青もなんて鮮やか…!!様々な分野のプロとものづくりできる幸せを改めて感じます。 pic.twitter.com/4WHL29VrJE
— 石井 明日香 Asuka Ishii (@A_s1101) 2018年1月2日
“職人技” 僕にも伝わってませーーーー!!
このツイートを見て、初めて表紙が一枚の画であったことを知った。
クリスチャン・ラッセンの画なんて到底買えないけど、『ひさかたのおと』の表紙画はそれに引けをとらないくらいおしゃれで美しい。
こんなおしゃれな表紙だ。
中身もシャレオツに決まってる。
うん、やっぱりだよ。
シャレオツだったよ。
内容のシャレオツ感が表紙にも滲み出ていたよ。
『ひさかたのおと』を実際に読んでみて
そんなこんなで、いま僕の手元にある『ひさかたのおと』1巻を早くも10回は読んでる。
なんだろうなぁー読んでるとやさしい気持ちになれる。
美術館で絵を見てる時のような(観に行ったことないんですけどねw)、心が洗われる感じというか、そんな不思議な力を秘めた漫画だった。
『ひさかたのおと』のあらすじを紹介しておきます
教師を目指しながら博物館に勤めていた柚木 巽(ゆずき たつみ)に、「”靑島”で社会科講師に」と白羽の矢が立ったところから物語は始まる。
「靑島」はかつて巽が育った場所であった。
いつか大きくなったら返しにいこうね。あの島へ。ひさかたのおとの生まれるところへ
引用:石井明日香/講談社『ひさかたのおと』1巻35頁
巽は「靑島」と聞き、早くに亡くした母・信乃のこの言葉をふと思い出す。
幼い頃からいつも首から下げてるようにと母に言われ、今でも常に身に着けている謎の石”イクリ”とは何なのか―
「ひさかたのおと」とは―
母の残した言葉の意味を辿るチャンスがたまたま訪れた巽は、靑島赴任への話を引き受ける。
ところが、島に来るや、巽の周りで次々と起こる不思議な出来事。
それは、これまで博物館で遺物という「確かに在るもの」に触れてきた巽にとって、信じ難いことの連続。
この島は普通じゃないのか―
「ここんとこやけに騒がしいと思ってたけど なるほどそういうことか あの子が帰ってきたんだねえ」
巽の帰郷を予期する謎の老婆とは一体―
謎を散りばめながら、1巻は終わる。
オススメは第5話「むしのおと」
『ひさかたのおと』はストーリータイトルに全て「〇〇のおと」と作品名にちなんだ「おと」が付いている。
・はじまりののおと
・なみのおと
・かみなりのおと
・きりのおと
・むしのおと
1巻収録の最後の話「むしのおと」が僕はすごく好きな話。
第5話は「虫送り」の話でした。
松明(たいまつ)を片手に田んぼや畑を練り歩いている風景を皆さんもどこかで映像として見たことがあると思う。それが虫送りっていうんだって。
「虫送り」という言葉も初めて知ったけど、それを掘り下げて話にした「むしのおと」は、石井明日香先生のセンスが一番感じられる話だった。
おれさ昔から思ってたんだ おれたちがこうやって追い払ったら ここにいたむしたちはどこにいくんだろうって
引用:石井明日香/講談社『ひさかたのおと』1巻,186-187頁
巽の教え子がこんなことを言う。
なんか考えさせられる。
ゴキ〇だって、蚊だって、ハエだって、「生きていた」だけなのに邪険にしていいのだろうか。とさえ思えてくる。うーむ…
妻にそう話すと「じゃあ、明日から外で寝れば」とバッサリ。←コノ野郎。
皆さんも、きっと「むしのおと」を読めばそう思うよ、きっと。きっと…。
『ひさかたのおと』では、こんなやさしい言葉たちがふんだんに散りばめられている。
「岡本太郎現代芸術賞」も入選してる石井明日香先生の画力はハンパねぇ
石井明日香先生のこと少し調べてみました。
美大出身で、漫画を始めたきっかけは―
≪2014年の夏の終わり。イギリスに行けることが決まり、日本にいる間にやれることをやっておこうと思う、と言った私に友人たちが強く勧めてくれたのが「漫画」でした≫
引用:石井明日香 ブログ 「青風note」
これをきっかけに応募した『drop』が『月刊アフタヌーン』で入選を果たし、漫画家への一歩が始まったようだ。
石井明日香先生の受賞歴をまとめてみました。
「岡本太郎現代芸術賞」で入選しているあたりで納得がいった。『ひさかかたのおと』の画の美しさはそういうことだったのか。石井明日香先生は育った畑が違うのだ。
アートの延長に『ひさかたのおと』があっただけなのかもしれないとさえ思う。
石井明日香先生の受賞作品
●『drop』
2014年:『月刊アフタヌーン』の「四季賞2014年冬のコンテスト」にて準入選
●『あめつちのうた』
2015年:『月刊アフタヌーン』の「四季賞2015年冬のコンテスト」にて四季賞を受賞
「四季賞」は最優秀賞である「四季大賞」の次点。
『good!アフタヌーン』2016年3号掲載に受賞作が掲載されているようです。
●『/8000000』
2015:第18回岡本太郎現代芸術賞 4位入選
石井明日香先生のツイートもアートの一部すぎる
てゆーか、作品もオシャレなら、石井明日香先生のツイートもオシャレすぎるぜよ。
Twitterらしからぬオシャレ写真がたくさんアップされてました。
何気ないツイートもアートの一部のよう。
何かに出会えそうな、心がしんとする神社にも連れて行ってもらいました。一日いられる。 pic.twitter.com/N5w547yljn
— 石井 明日香 Asuka Ishii (@A_s1101) 2017年11月23日
これだから、夏って好きなんだ。 pic.twitter.com/7PIIuOjlQy
— 石井 明日香 Asuka Ishii (@A_s1101) 2017年7月31日
漫画の描き方もおしゃれだっつーの。
ちなみに第1話のカラー4ページは全てシナベニヤパネルに描いています。木目の質感が海に見えてくる、素材の不思議。 pic.twitter.com/mW9gExaAet
— 石井 明日香 Asuka Ishii (@A_s1101) 2017年9月9日
「ひさかたのおと」第1話見開き扉絵、制作過程はこんな感じでした。ドバッと乗せた色がどんな質感になるか、半分偶然に任せつつが楽しい。 pic.twitter.com/pd685kIWMB
— 石井 明日香 Asuka Ishii (@A_s1101) 2017年9月9日
「あけましておめでとうございます」も、おしゃれだっつーの。
あけましておめでとうございます!!昨年は挑戦、成長、そして素晴らしい出会いの機会を頂き、がむしゃらに駆け抜けました。2018年も〝make it count〟今を大切に、表現してゆこうと思います。本年もどうぞよろしくお願い致します! pic.twitter.com/YFXVCfEzoC
— 石井 明日香 Asuka Ishii (@A_s1101) 2018年1月2日
まとめ
夏にスイカが食べたくなるように、
夏の夕暮れ時にヒグラシの声をボーっと聞きたくなるように、
夏の夜にふと線香花火がやりたくなるように、
この夏『ひさかたのおと』を僕は読みたいと思う。
それくらい『ひさかたのおと』は夏に一さじの涼しさと温かさを与えてくれる、そんな漫画だ。
今年もきっと海には行けないから…旅行には行けないから…という人も『ひさかたのおと』を読めばきっと夏を味わうことができる。
是非この夏、読んでみてください。
と、今回の第1回ジャケ買いは大当たりで終わった。
僕のジャケ買いの冒険は続く…