生活保護の実態を描いた『健康で文化的な最低限度の生活』が神作品である3つの理由

生活保護の実態を描いた『健康で文化的な最低限度の生活』が神作品である3つの理由
     

大学卒業以降職を転々としたが、幼い頃から三度のメシより本が好きなことを思い出し、自分には物書きしかないと一念発起。
現在はフリーライターとしてひた走る。
漫画は少女漫画を中心にオールジャンル読むが、闇が深いものとミステリー要素があるものが考察しがいがあって好き。

 

柏木ハルコ先生の描く『健康で文化的な最低限度の生活』は、「生活保護」の実態を実直に描いた漫画です。
ドラマ化もした話題作ですが、ぜひ原作も多くの人に読んでほしい作品です。

生活保護と言えば、不正受給などのマイナスなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか?
しかし、本来生活保護とは、だれもが受給する可能性のあるセーフティネット。
『健康で文化的な最低限度の生活』は、生活保護の是か非かという単純なものだけではない問題を提起する作品です。

『健康で文化的な最低限度の生活』のあらすじ

新卒公務員の義経えみるが配属されたのは福祉事務所。

えみるはここでケースワーカーという
生活保護に関わる仕事に就くことになったのだが、
そこで生活に困窮した人々の暮らしを目の当たりにして――

新聞メディアはもちろん、
現職のケースワーカー、医療、福祉関係者の方も注目する本格派ドラマ!

[生活保護]に向き合う新米ケースワーカーたちの奮闘劇、開幕!

(C)柏木ハルコ/小学館
引用元:Comee.net

物語は、主人公・義経えみる(よしつね えみるが、大学卒業後に区の職員になったところから始まります。
他の4人の同期と共に配属された先は、福祉事務所の生活課。
ケースワーカーとして生活保護の対象者の様子を見て必要に応じた援助をし、自立の手助けをする仕事です。

困窮した方々の生活の根源となるお金を扱う仕事のため、相手の状況に合わせた適切な支援や必要な説明をするために、対象者と向き合い、互いに信頼関係を築くことが必要になります。
生活保護費の説明だけでなく、就職状況の相談を受けたり、住む場所や病院を探したり、時には家を訪問したり、リハビリ施設を探すお手伝いをしたりと、生活保護受給者の人生に関わる姿が描かれます。

『健康で文化的な最低限度の生活』はここがすごい!

①取材に基づいて描かれている

生活保護は、存在を知っている方は多いですが、どんな方がどんな風に利用しているのか、その実情はなかなか知る機会のない制度でもあります。
生活保護受給者が受給に至るしかなかった経緯や、生活保護費を生活の根源としていることを含め、非常にデリケートな問題だからでしょう。
そのため、たびたびニュースで目にする不正受給者問題の印象は強く、生活保護についてはマイナスのイメージを抱きがちになってしまうのかもしれません。

柏木ハルコ先生の『健康で文化的な最低限度の生活』は、連載前から約2年にわたる綿密な取材を基にスタートした作品です。
生活保護者の支援をする公務員の方だけではなく、実際に生活保護を受給している方、ホームレスを支援しているNPO団体に取材し、遺族のいない方の遺品整理にも同行しているため、受給者側、支給者側、双方の視点を取り入れ、よりリアルで客観性の高い生活保護の実情が描かれています。

役所の新人職員を主人公にした作品ですが、作品で描かれる舞台は役所内だけではありません。
受給者の家を訪問するのはもちろん、「アルコール依存症」の受給者が登場する話では、更生のために参加する自助グループの活動の様子が描かれます。
高齢の受給希望者を描いた回では、年齢を理由に不動産屋で家を借りることを断られるシーンも登場します。
いずれも当事者になるまで知る機会の少ないシーンではありますが、綿密な取材をしたからこそ分かる、生活保護受給者のリアルな生きざまが描かれています。

②生活保護受給者の描写がリアル

『健康で文化的な最低限度の生活』では、さまざまな生活保護受給者が登場します。
それぞれが過去を抱えて生きていて、虐待やDV、アルコール依存症、借金など、過去に苦しみ、生活保護を受けざるを得なくなった人たちも多いですが、自尊心や羞恥心、これまで他人から受け入れられなかったトラウマなど、受給者にも様々な気持ちがあるため、初めから心を開いてくれる人は少ないです。

さらに、問題が起こったのが過去であっても、今現在の問題として抱え続けている受給者も多いです。
借金の返済のため、働けなくなるまで生活を切り詰めて責任をとろうとする人や、生活保護をもらわないために働かなければならないという重責から自分を責めすぎてしまう受給者もいます。
受給者たちが背負ってきた過去だけでなく、その過去が今にどのように響いているのか、彼らは今現在どのような気持ちでいるのか、ケースワーカーに対してどのような思いでいるのかなど、『健康で文化的な最低限度の生活』に登場する受給者たちは、ただの生活保護の受給者としての一面だけを持つキャラクターとしてではなく、多面性を持った“人間”として描かれているため、非常にリアルで、単なる言葉では言い表せない複雑なストーリーが存在する作品です。

また、漫画ならではの心情表現の描写も随所に見られます。
自分は働けるのだから、生活保護をもらってはならないと自分を律しながらも求職活動を続ける女性がケースワーカーとの面談で受け答えをしながらも頭が真っ白になっている様子や、過去の事情から親と連絡をとることをかたくなに拒んでいた青年が、扶養照会の義務(生活保護の受給申請者を養うことはできないか家族に確認するもの)によりケースワーカーからの連絡を受けて現れた親から逃げる際の心情が、背景など言葉以外の要素を使って巧みに表現されています。
口調やしぐさ、訪問した際の部屋の様子でも、登場人物たちが何を嫌がっているか、何を気にしているのか、どんな思いでいるのか、それを知る手がかりが示されています。
そのため、漫画という媒体を通して、あたかも1人1人の人間に接しているかのような印象を抱かせられる作品です。

③ケースワーカーが超人ではない

作者の柏木ハルコ先生は、この作品を描くにあたり、「だれかひとりの活躍ですべて解決!」というミラクルが起こらないストーリーを描くことを心がけているそうです。
そのため、性格はそれぞれ違いながらも、ケースワーカー1人1人が挫折したり、自分のやり方はこれであっているのかと迷ったりしながらも、生活保護受給者たちと向き合っていくリアルな姿が描かれています。
それは、えみる達新人はもちろん、知識や経験のある先輩ケースワーカーも同じです。
そのため価値観や対応方法、理想とする受給者のゴールがケースワーカーによっても違うことも描かれています。

ケースワーカーと受給者たちは、お互いにすぐに信頼関係を築くことができるわけではありません。
また、一見信頼関係を築けたように見えても、実際は深いところで分かり合えておらず、状況が変化した際に、考えていたことや、理想としていた終着点が受給者と異なっていることに気づくという展開も多いです。
ケースワーカーである主人公たちですら、彼らの生活が困窮したのは自業自得ではないかと思ってしまうような受給者や、就労可能なのに求職活動をわざとしていないのではないかと思ってしまう受給者の姿も描かれています。
特に知識や経験の浅い新人のケースワーカーたちの視点から描かれていることで、ケースワーカーたちが初めて会った受給者に対する思いが、受給者というキャラクターに対する読者の印象と共通する構成となっています。
主人公のえみるは、昔から「天然」、「マイペース」と言われるキャラクターで、空気の読めないタイプ。
困惑し、失敗を繰り返しながらも、先輩を頼ったり、コミュニケーションをとったりすることで受給者1人1人を理解していくため、読者もえみるに合わせて受給者の人となりを知っていくことができます。

また、えみるの同期として登場する新人のケースワーカーも、それぞれ異なったタイプです。
栗橋千奈(くりはし ちなは、えみるとは真逆にしっかりした性格で、生活保護についても人一倍早く理解しているため、受給者から見ても頼りがいのある存在に思えますが、四角四面なところがあり、受給者の気持ちを慮ることができずに失敗しています。
母子家庭で育った七条竜一(しちじょう りゅういち)は、精錬で熱血な性格ですが、生活保護を受けずに女手一つで育てられた自分の経験から受給者を激励するあまり、追い詰めてしまうこともあります。
温和な性格の桃浜都(ももはま みやこ)、親しみやすい優しい表情とわかりやすい話し方で受給者に接することができますが、強く言うことができずに悩んでいます。
それぞれが自分のやり方で受給者に接し、失敗しながら成長していく姿が描かれます。

受給される側だけでなく、支援する側の人間性も一般人としてしっかりと描いているため、共感しやすい作品です。
読者が受給者たちに思うところがあるのと同様に、登場人物たちもそれぞれが信念や思いをもって仕事に取り組んでいますが、理想だけではうまくいかないことも多いです。
読者もキャラクターを通して、彼らがぶつかった壁や悩みを一緒に疑似体験できるため、読んだ後に考えさせられます。

『健康で文化的な最低限度の生活』は“人間”を描いた作品

『健康で文化的な最低限度の生活』では、生活保護を受ける受給者と、それを支えるケースワーカーを描いています。
フィクションではありますが、実際の綿密な取材に基づき、今、日本に存在する人々を描いたリアルな作品です。
登場人物達それぞれが、各々の気持ちや考えをもって生きる姿が描かれているため、読者も共感したり、反発したりとそれぞれの思いを抱くのではないでしょうか?
年齢や経験によっても感じ方は異なるかもしれません。
ぜひ多くの人に、一度ではなく何度でも読んでほしい作品です。

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