帝国精神論 vs 数学の天才 『アルキメデスの大戦』は合理主義で戦争を制す

帝国精神論 vs 数学の天才 『アルキメデスの大戦』は合理主義で戦争を制す
     

サブカルクソ研究者。
英文学・言語学・メディア記号論を専攻。
新聞社を退職後、翻訳補助を通じて総合文化研究に携わるも、中の人がどオタクであった為に、研究対象は漫画、アニメ、ゲーム等に限られる。Twitter→@semiotics_labo

   

東京大学受験のノウハウを詰め込んだ『ドラゴン桜』
高校野球と金の関係を描いた『砂の栄冠』
FXや不動産への投資を扱った『インベスターZ』

など、様々なジャンルのヒット作で知られる三田紀房が、次のテーマに選んだのは、戦時下における帝国海軍の技術戦略でした。

 

引用元:Comee.net

『アルキメデスの大戦』は、航空主兵論を掲げる海軍少将・山本 五十六(やまもと いそろく)が、戦艦大和の建造計画を阻止する為、帝大数学科の天才・櫂 直(かい ただし)に、大和建造にかかる費用の再見積を依頼する所から始まります。

今回は、三田作品の特色とこの漫画の面白さを、とくと語ってみたいと思います。

非合理性vs合理性のテーマ

ドラマ『半沢直樹』のような分かりやすさと痛快さ

『アルキメデスの大戦』では、

大艦巨砲主義による超弩級戦艦の建造を 非合理性の象徴

航空主兵主義による航空母艦への転換を 合理性の象徴

として描き、日本の旧態依然とした組織運用のあり方を旧日本軍と戦艦大和に強く反映する事で、前時代的な組織 vs 近現代的でスマートな主人公の対立に仕立てており、ドラマ『半沢直樹』のような正義と悪をはっきりさせた非常に分かりやすい構造になっています。

特に戦艦大和は、日本人の精神性の象徴でもあり、その人気ぶりは海底から引き揚げの後に波動エンジンを搭載して宇宙に飛ばすほど。
実際にあった金剛代艦案のコンペティションを、大和建造案としてスライドさせ、現代の合理性をもって前時代の精神ごと叩っ斬る作者の発想は見事としか言いようがありません。

 

画像引用元:amazon.co.jp

 

作者・三田紀房と言えば、『西原理恵子の人生画力対決』で首寝違えと称された、福本伸行と双璧を成すヘタウマ画風で知られた漫画家です。

ところが、『アルキメデスの大戦』では作画の大半をミリタリーに強いアシスタントに頼り、実在の人物は肖像に寄せて描いている為、画力の大幅向上が認められます。

『ドラゴン桜2』で作画作業の完全外注という合理化を図った作者にとって、合理主義者の櫂少佐のキャラは実に生き生きとしており、軍部の上役を次々とやり込めていく様は痛快そのもの。
画力アップも伴って、物語の迫真性を一層際立たせているのが特筆に値します。

どうすれば太平洋戦争に勝利出来たか?

一方で、作中で絶対優位であるかのように持ち上がる航空主兵論は、現実には必ずしも優位ではありませんでした。

 

画像引用元:Wikimedia Commons

山本五十六の考え方は、兎にも角にも「戦争をしない」事。
連合艦隊司令長官に任命された後は、初っ端から大きな戦果を挙げ、連合国との早期講和に持ち込むのを第一としました。

ならば櫂少佐がやるべきは、山本の兵力の運用の甘さを指摘する事です。

帝国海軍の情勢をマクロ的に見た場合、山本の希望通りに航空機を増産したところで、それを飛ばす燃料と、熟練パイロットの数が不足していました。
空母と航空兵力を主兵とした場合、必要な時期、必要な場所に、必要な数を揃えるだけの運用が難しくなります。

従って櫂少佐も、戦艦1隻にかかる費用より、兵力のバランスを考慮した上で、必要な時期、必要な場所に、必要な数を揃える事を最優先とし、戦艦の建造費はむしろ積極的に投じるべきだと、山本に進言するのが正しいのです。

 

 

重要なのは、戦艦大和はパナマ運河を通れないという事です。

戦艦大和の艦幅 38.9m
パナマ運河の全幅 33.5m

大和の運用から考えると太平洋上で決着をつけるのが望ましく、その為には大和が就役する1週間前に始まる真珠湾攻撃を、史実より徹底的に行い、制海権を掌握しておくのが最も効率的な戦い方でした。

最初の攻撃でアメリカ太平洋艦隊を壊滅させ、その足でミッドウェー島攻撃を大規模に行っていれば、その後の大和の使い道を、アメリカ西岸の砲撃照準に定めた艦隊保全(フリート・イン・ビーイング)に見出す事が出来ていたでしょう。

となると、櫂少佐にはもう1つ、伊400型潜水艦の建造を早める仕事が加わります。

アメリカの戦艦・空母級の造船所は、大半が東岸にありました。
戦艦大和を太平洋上で無敵にするには、パナマ運河を隠密に爆破・通行不能にする作戦が不可欠で、それを実行できる戦力を、日本はまだ有していませんでした。

よって、新型戦艦の建造の他に、新型潜水艦の建造にも同時に着手し、両方の戦力が揃った所で真珠湾攻撃に移るのが、山本の早期講和策を実現する唯一の道筋であったと考えられます。

 

画像引用元:三田紀房公式アカウント(@mita_norifusa)

 

『アルキメデスの大戦』は主人公・櫂直の大立ち回りを楽しむ漫画であり、戦記漫画としての考証はあくまでオマケ程度に留めておけば良いかと思います。

櫂少佐の活躍は海軍だけでなく、航空廠や陸軍にも顔を出し、歴史の転換点に必ず関わるようになります。
3巻で新型戦艦建造計画にひと区切り付いた後は、4巻から新たな話に移りますが、そこまで読み進めた頃には、この漫画の面白さがきっと伝わっている事でしょう。

まとめ

三田紀房の渾身の一作、『アルキメデスの大戦』。
日本の前時代的な組織を非合理性に据えたテーマは、現代にも通じます。

2019年夏には実写映画化も決定しましたので、それより前に既刊10巻まで一気読みしてはいかがでしょうか?

 

戦艦「大和」を阻止せよ!!! 日本の未来を1人の数学の天才が変える!? 時は1933年。日本海軍の中枢・海軍省の会議室で、次世代の旗艦を決める新型戦艦建造計画会議が開かれ、2つの陣営が設計採用を争う事に。これからの海戦を見据え、高速の小型戦艦を打ち出す“航空主兵主義”派に対し、海軍内で権力を握る“大艦巨砲主義”派の計画は、世界でも類を見ない超巨大戦艦の建造だった――!!

(C)Norifusa Mita/講談社
引用元:Comee.net

 

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