田舎はるみの「漫画家さんインタビュー企画」第6弾!
今回は、90年代後半に『りぼん』を賑わせ、2002年に連載終了後も人気が衰えず、2016年に14年越しに実写ドラマ化された大人気少女漫画『グッドモーニング・コール』の作者として有名な高須賀由枝先生にお話を聞いてきました!
実はわたくし田舎はるみは、トークショーやサイン会に参加するほど、高須賀由枝先生の大ファンなのです。
そんな高須賀先生から今回直接お話を伺えるということで、緊張しすぎて心臓が爆発寸前でした。
幸い爆発せずに無事生還しましたが、命がけでさせてもらったインタビュー取材の様子をどうぞご覧ください。
今回も激レアな話が盛りだくさんです!
【プロフィール情報】
高須賀由枝
高校3年生の時に『りぼんオリジナル』1991年冬の号にて読切作品『Revolution』で漫画家デビュー。
1997~2002年に連載された『グッドモーニング・コール』が代表作となる。
現在は、続編の『グッドモーニング・キス』と、『コミンカビヨリ』をW連載中。
憧れの漫画家デビューから“レジェンド作家”になるまで
田舎: 高須賀先生、こんにちは! 今日はよろしくお願いします。実は僕、20年前くらいからずっと高須賀先生のファンなので、めちゃくちゃ緊張しています……。
高須賀: 昨年の京都でのサイン会にも来てくれていましたもんね。今日もよろしくお願いします。
田舎: 覚えていてくださって嬉しすぎます! 早速ですが、いろいろ聞かせていただきますね! 高須賀先生は子供の頃から漫画家になるのが夢だったんですか?
高須賀: なりたかったんですけど、「漫画家になりたい」って誰にも言ったことはなかったですね。多分そんな簡単になれるものじゃないって自分の中でわかっていたんです。だから子供の頃に将来の夢を書くときは、「花屋さん」とか適当に書いていました(笑)漫画家は、なりたいけどなれるものじゃないって感じでした。中学生の女の子が「アイドル歌手になりたい」って憧れるのと同じくらいの感じだと思います。
田舎: そうだったんですね。でもその憧れが叶ったんですね! 実際に出版社への投稿を始めたのはいつ頃ですか?
高須賀: 高2の終わりに一本の漫画を仕上げて投稿してみたのが最初です。そしたらそれでデビューすることになって……。
田舎: えっ! 一撃ですか!?
高須賀: 一撃だったんです(笑)それまでも途中まで描いてみたことはありましたけど、やっぱり32枚(※投稿用漫画は規定ページ数が16~32枚)も描くってなるとなかなか最後まで仕上げるのが結構大変で。今となったら毎月32枚くらい描きますけど、中高生にとって、話を考えて32枚も絵を描くってすごい作業量なんですよね。だから途中で飽きちゃったりして。高校卒業までには絶対に一本投稿しようって思って描きました。
田舎: 高校卒業までに、と強く思っていたのには理由があるんですか?
高須賀: 本当はその前に、中学卒業までに一本投稿するって決めていたのにそれができなかったんです。で、高校生になったときに、高校卒業までに投稿しないと今度は「大学卒業までに……」ってそのままズルズルと一生投稿しないんだろうなと思ったので、絶対高校卒業までに一本投稿するって決めました。
田舎: なるほど! 強い意志で高校卒業までに仕上げてデビューを勝ち取ったんですね! すごいですよね。
高須賀: 高3の秋にデビューしたんですけど、その当時の『りぼん』では結構みんなデビューが早くて、早い人だと14~15歳でデビューする人もいました。中学生デビューはすごいって言われて注目されるんですけど、高校生デビューとなるとそんなに珍しくなくて。16~17歳デビューは普通にいて、18歳も全然早くなくて、19歳だと遅いくらいでした。
田舎: えー! 19歳でも遅いぐらいだったんですね。
高須賀: 24歳くらいになるともうデビューさせてもらえないっていう話もありました。だから絶対に高校生の間に投稿したかったんです。じゃないと夢のまま終わってしまうなと思ったので。
田舎: そうなんですね。高校生デビューってもっと偉業だと思ってました。
高須賀: 実はそうでもないんですよ。あと、初投稿でデビューもそんなに珍しくなかったです。もちろんすごく嬉しかったんですけど、前代未聞というほどではないし、私が取った賞ってそんなに大きな賞じゃなくてデビューするのに最低限必要な賞みたいなものをとってデビューしたので。もっといい賞でデビューする人もいらっしゃるので、私は全然目立ってなかったと思います。
田舎: そうなんですか? 僕が小学生のときに初めて『りぼん』を読んだときには、『グッドモーニング・コール』が看板作品みたいになっていたのを覚えています。学校でも女子たちはみんな『グッドモーニング・コール』の話をしていましたよ。みんな「上原くん、上原くん」って。
高須賀: 本当にありがたいです。
田舎: 高須賀先生は『りぼん』の“レジェンド作家”のおひとりじゃないですか。りぼん60周年関連のイベント(東京スカイツリーで行われた『250万乙女のときめき回廊』など)でピックアップされる伝説の作品群の中に、高須賀先生の『グッドモーニング・コール』はいつも入っていますし。
(東京スカイツリーのイベントでは『赤ずきんチャチャ』『グッドモーニング・コール』『こどものおもちゃ』『ご近所物語』『天使なんかじゃない』『ときめきトゥナイト』『ハンサムな彼女』『姫ちゃんのリボン』『ママレード・ボーイ』『有閑倶楽部』の10作品がピックアップされた)
高須賀: それも、私はずっと不思議なんです(笑)本当にすごく嬉しいし光栄なことなんですけど、「なんで私がこの先生たちと並べられているんだろう?」って……。吉住渉先生も矢沢あい先生も小花美穂先生も池野恋先生も、皆さん私が読者として読んでいた頃から大活躍されていた、『りぼん』の黄金期を支えた偉大な先輩方ですから。私は黄金期と呼ばれている時代よりちょっと後くらいにデビューしたので。
田舎: なるほど。
高須賀: 私が連載していたのは『りぼん』が250万部くらい売れていた全盛期よりちょっと後ぐらいなので。黄金世代が凄すぎて(連載が徐々に終わるに連れて)売り上げも落ちてきているのを「何とかしろ!」って言われていた世代です(笑)あの時代の先生方はもう本当に伝説なんですよ。だからそんな偉大なメンバーと私の名前が並んでいるのがいつも不思議なんです。
田舎: いやいや、高須賀先生も同じレジェンド作家ですよ! 小学生の頃の僕にとっては、ジャンプでは『ドラゴンボール』、りぼんでは『グッドモーニング・コール』みたいな感じでしたね。ずっと大好きでした。
漫画を描くことの苦悩と信念
トップを目指した末の苦悩
高須賀: 逆に私の方から聞きたいんですけど、『グッドモーニング・コール』のどこがお好きだったんですか? 読者の方とお話することはなかなかないから自分ではわからないんです。一生懸命描いていたんですけど、「こういうのがウケるだろうな、こういうのを狙っていこう」みたいなことを考える余裕がなくて、無我夢中で描いていたんですよ。だからどうしてヒットしたのかわからなくて、どういうところがこの作品の良さなのかもわからないままなんです。今続編を描いているから切実に知りたくて。
田舎: 僕の個人的な意見かもしれませんけど、僕が好きなのはいい意味で“大きな事件が起こらないところ”ですかね。だからずっと安心して読める。小さな喧嘩をしたり、ちょっとしたライバルが出てきて不安になったり、っていうのはあるんですけど、菜緒と上原くんは“絶対に別れない二人”って感じが、すごく良いなって思います。
高須賀: あはは(笑)そうなんですよ! 読者さんは誰もあの二人の破局は心配していないんですよね(笑)
田舎: あと単純に、菜緒がすごく可愛いです! のほほんとしていてちょっとおバカなところと、純粋でまっすぐなところがいいですよね。男子の理想の女の子っていう感じに近いんじゃないかなと思っています、僕は。
高須賀: 男子読者を意識して描いていなかったので、そういう意見は嬉しいです。 あと、さっき仰っていましたけど、『グッドモーニング・コール』って大きな出来事が起こらないじゃないですか。
田舎: 『グッドモーニング・コール』の特色のひとつですよね。
高須賀: それが良いところだって言ってくださる人もいるんですけど、それがつまんないっていう人もいるんですよ。連載当時に「何も起こらないし何も心に残らない」ってネットで書かれていて、すごくショック受けました。
田舎: えー!
高須賀: でもね、人気が出る前は、「面白くない」って言われたり嫌な内容の手紙が来たりしても、「トップを取れば誰もそんなこと言わなくなるんだ」って思って頑張っていたんです。そしたら『りぼん』で読者アンケート1位になれたんですけど、それでもやっぱりそういう悪い意見はなくならないんですよね。当然ですけど、読者さん達は好みもバラバラなので、1位だとしても面白いと思わない人はもちろんいるし、1位になったらなったで目立つからむしろアンチ的な手紙は増えるんですよ。みんなに認めてもらいたくて頑張ったのに……って、それが本当に辛かったですね。
ふたつの大きな信念
田舎: それは辛いですね。たしかに『グッドモーニング・コール』は大きな事件は起こりませんけど、それが何も心に残らないってことではないと僕は思うんですが……。
高須賀: その当時は『こどものおもちゃ』や『新世紀エヴァンゲリオン』のように深くてちょっと重いテーマのお話が流行っていたので、私の作品は「こどちゃやエヴァと比べると内容がない」って言われていました。
田舎: たしかに『グッドモーニング・コール』は重いテーマの漫画とは対照的とも言えるようなのほほんとした暖かい雰囲気ですもんね。そういう作風はどのようにして生まれたんですか?
高須賀: それはちゃんと自分の信念があってそういう漫画を描きました。もちろん私には深くて重い漫画が上手に描けないと思ったから、というのもあるんですけど。私が重い漫画を描いたらただの恨み言みたいな内容になってしまう気がして、エンタメとしてうまく消化できる自信がその当時はなかったんです。だからそういうのは上手に描ける人が描けばいいと思って、じゃあ私には何が描けるだろうと思った時に、私は『イタズラなKiss』がすごく大好きで、私の中のラブコメの金字塔で、ああいう漫画が描きたいなってずっと思っていたことを思い出したんです。
田舎: イタキス(『イタズラなKiss』の略)ですか! 僕も大好きです! 悪い人間があんまり出てこないところとか。イタキスも大きな出来事はあまり起こらないですよね。
高須賀: そうなんですよ! 例えば、交通事故にあうとか災害が起きるとか宇宙人がやってくる(笑)とか、そういう非日常的なことってもちろん大きな出来事なんですけど、でもドラマチックな事って大きな出来事に限ったことではないと私は思うんですよ。
田舎: と言いますと?
高須賀: 例えば、すごく好きな男の子がいて、頑張って連絡先を渡したんだけど連絡が来なくって「あーやっぱり来ないなぁ、私に興味ないんだなぁ」と落ち込んでいたら突然連絡が来る、みたいな事ってそれだけでドラマチックなんですよ。
田舎: たしかに! すごくドキドキします! ドラマチック!
高須賀: そういうのって、何かのオーディションに受かったり、宝くじが当たったり、大きな賞を受賞したり、っていうのに比べるとすごく小さなことなのかもしれないけど、だけどその子にとっては大事件なんですよ! それこそがドラマなんじゃないかって思うんです。しかもそれってけっこう誰にでも分かる感覚じゃないですか。例えば「初投稿で漫画デビューしました」っていうのは誰もが経験することではないから想像して感じるしかないんですよ。でも、好きな男の子から連絡が来て天にも昇るような気持ちになったり逆にすごく落ち込むことがあったり泣いてしまったり、ってどんな人でも共感できることだと思うので、そういう日常的なことをテーマに漫画を描きたいと思ったんです。
田舎: なるほど! 大きな事件を起こさなくても日常的なことで読者の共感を得て心を動かせるというのが先生の信念なんですね。 あと、高須賀先生の作品には意味もなく意地悪をする人とか悪い人があまり出てこないのが良いですよね。安心して読めるし、楽しいなって思います。
高須賀: ありがとうございます。最近では「悪い人がいない世界なんてリアルじゃないな」とも思うんです。悪い人や意地悪な人は絶対にいますし。でも現実世界で辛いことは十分あるから、せめて漫画を読んでいる時くらいは辛い気持ちになってほしくないなっていう気持ちで描いています。
田舎: それも高須賀先生の信念のひとつなんですね! とっても素敵なお考えだと思います。
高須賀: 私としては、ブルーな気持ちになるようなきつい内容の漫画や小説も好きなんですけど、私はそうじゃないものを描いていこうという気持ちがあります。
田舎: そういう信念のもとに生まれた作品たちだから、多くの人から長く愛されるんですね!
高須賀: さっきも言いましたけど、自分にはきつい内容の漫画がうまく描けないというのもありますけどね。そういうのを描くのが上手な人はすごい上手なので。だから自分は無理をせずに自分の得意なもので勝負していこうっていう感じです。
高須賀作品に大きな影響を与えた作品は?
田舎: 何か影響を受けた漫画作品ってありますか?
高須賀: もしかしたらバレバレかもしれないんですけど……『SLAM DUNK』ですね。
田舎: えっ? 『SLAM DUNK』ですか?
高須賀: あのドーンっていう感じのギャグ絵の描き方、すごく似ていませんか?(笑)
田舎: あ! 確かに!(笑)キャラが3頭身くらいで丸っこい顔になるあの感じですよね! めちゃくちゃ似てます!!
高須賀: そこはすっごく影響を受けていると思います。昔は私はあそこまで派手にドーンとギャグ絵を描くことがなかったので。
田舎: 今となってはもう高須賀先生の作品の特徴の一つですもんね。
高須賀: 今はありがたいことにそう言って頂いています。井上雄彦先生の作品は“ギャグとシリアスの緩急のバランス”がすごいなとずっと思っていて。 すごくかっこいいシーンとギャグ絵のシーンとのギャップが大好きで、それを真似たわけではないんですけど多分無意識に影響を受けているんだろうなとは思いますね。ギャグシーンを描くんだったら、せっかくだから『SLAM DUNK』みたいに思いっきりドーンって描こうと思って描いていたら、それが私のカラーみたいな感じにもなってくれています。
田舎: 大好きな漫画から影響を受けているんですね!
高須賀: はい、本当にめちゃくちゃ好きなんですよ。それとさっき話していた『イタズラなKiss』もですね。『イタズラなKiss』と『SLAM DUNK』が私の人生で最高の2作品です。
田舎: 高須賀先生の作品はイタキスにも通ずるところがありますよね。例えば、二人がくっついて物語が終わりじゃないっていうところとか……。
高須賀: そうなんですよ! 私、イタキスでは入江くんと琴子がくっついた後の話が大好きなんですよ! 二人がくっつく回もすごく好きなんですけど、くっついた後の二人の関係性がすごく好きで、こういうのいいなーって思っていて。それも自分の作品への影響はあるのかもしれないです。
田舎: 僕もイタキスはそこが好きです! くっついた後も二人の普通の日々が描かれていて、二人や他の登場人物が高校生、大学生、大人へと成長していく感じとか。
高須賀: そうそうそう! 二人の関係がそれで少しずつ変わっていくじゃないですか。だんだん信頼が増していく感じや、付き合って心が通じ合ったはずなのに相変わらず入江くんはクール、みたいな感じも好きで。付き合ったからっていきなり入江くんが琴子に甘くなったりしないじゃないですか。時々は甘いんですけど、基本的には相変わらず「バーカ」みたいな感じで。それでも入江くんは琴子のことが大好きなんだよなって思えるところがすごく好きなんです。
田舎: そういうところはやっぱりグッドモーニングシリーズ(『グッドモーニング・コール』・『グッドモーニング・キス』)に通じるところがありますよね。
高須賀: でも上原くんはやっぱり入江くんほどかっこよくは描けなかったんですよ。入江くんよりちょっとヘタレなんです(笑)
田舎: いや上原くんも相当かっこいいですよ! 漫画の中で“御三家”と呼ばれて女子に人気があるのもわかりますし、現実世界でも、当時クラスの女子はみんな学校で上原くんの話をしていたのを覚えています。90年代りぼんっ子の永遠の憧れですよ。
グッドモーニングシリーズと『コミンカビヨリ』
『グッドモーニング・コール』で描きたかったこと
田舎: 元々『グッドモーニング・コール』はどういう考えから生まれた作品なんですか?
両親の都合で、卒業までの半年間、マンションで一人暮らしをすることになった中三の菜緒。ところが引っ越しの日に、何と別の男の子が同じ部屋に引っ越しをしてきたから大変! しかも、彼は同じ中学の上原くん。結局、同居するハメに!?
(C)高須賀由枝/集英社
引用元:Comee.net
高須賀: すごくイケメンの男の子と普通の女の子の王道的なラブコメがやりたくて。
田舎: まさにイタキスのような?
高須賀: そうそう! もう超王道のラブコメがやりたかったんです。で、「同じ学校に通っていながらも接点がなさそうで仲良くもなれなそうな二人がどうやったら恋に落ちるのかな」と考えた末に、「もう一緒に住ませるしかないかな」という結論が出て、同居ものにしました。
田舎: なるほど! 同居ものの少女漫画はいくつかありますけど、『グッドモーニング・コール』は少し特別ですよね。中学生の男女が二人だけで同居するという……。でもドキドキはするけど、まったくいやらしくなくてずっとほのぼのしているところがすごく好きでした。
高須賀: 同居ものって、お風呂でばったり会っちゃうとか少しエッチなエピソードが含まれていたりするんですけど、そういうのは私は描かないと決めていました。そういうのがやりたいんじゃなくて、同居という設定は“二人が否応なく毎日顔を合わせないといけない”というためのただの仕掛けであって。そのシチュエーションの中で、お互いに全然好きじゃなかった二人がずっと一緒にいることで少しずつお互いを好きになっていく、というお話が描きたかったんです。だから菜緒も上原くんの事を何とも思っていないところから始まっているんですよ。
田舎: たしかに言われてみればそうですよね! あんなに学校でモテモテの上原くんが同じ家にいるのに、菜緒は最初まったく興味がなかったんですよね。
高須賀: イケメンに特に興味がない女の子を描きたかったんですよ。
田舎: なるほど。今でも初めて『グッドモーニング・コール』を読んだときのことを覚えています。当時僕は小学生だったんですけど、「中学生になったら家族の都合で家を出て同級生の女の子と同居する可能性があるんだ」って勝手に想像してドキドキしていました。
高須賀: あはは(笑)
二人のヒロインと二人の王子
田舎: グッドモーニングシリーズの菜緒と『コミンカビヨリ』の萌は、それぞれ違うタイプで両方すごく可愛いヒロインだなと思うんですけど、どうやって生まれたんですか?
瀬戸内ほっこりサバイバル、開幕!! 老後に飢え死にしないために、築80年超の古民家を購入したアラサー独身イラストレーターの萌(もえ)。古民家オタクの一級建築士・池内(いけうち)くんの出現で、萌の日常が激変! 瀬戸内を舞台に繰り広げられる、ラブとサバイバルの行方は……?
(C)高須賀由枝/講談社
引用元:Comee.net
高須賀: 菜緒の場合は“天然であんまり悩まない子”っていう風にしたいなと思って、萌は逆に“何でも悩む子”をイメージして描きました。
田舎: 言われてみれば、真逆の二人ですよね。
高須賀: そうです。菜緒の親友のまりなも菜緒と真逆なんですけど、まりなと萌はちょっと違うんですよね。どちらもすごく悩む女の子なんだけど、まりなは割と切実に悩みを抱えるタイプで、萌はそんなことで悩むのっていう変なことで悩むんですよ。
田舎: わかります! 萌は老後のこととか保険のこととか、今そんなこと深く悩まなくてもいいのにって思うようなことで悩むんですよね。 男の子も、グッドモーニングシリーズの上原くんと『コミンカビヨリ』の池内くんは両方イケメンですけど全然タイプが違う王子という感じですよね。
高須賀: そうなんですよ。『グッドモーニング・キス』を描いている時に上原くんが何を考えているのかが全然わからなくてすごく動かしづらい時期があったんですよ。だからもっと明るくてはっちゃけた感じの男の子を描きたいと思って生まれたのが池内くんです。
田舎: 上原くんが扱いづらいから全然違うタイプの池内くんが生まれたんですね(笑) ちなみに高須賀先生は上原くんと池内くんだったらどっちが好きですか?
高須賀: 今は上原くんの方が好きなんですけど、何年か前は池内くんの方が好きでした。上原くんのことがつまんないなと思っていた時期があったんです(笑)
田舎: まあ上原くんの方が付き合いが長いですもんね、かなり(笑)
高須賀: そうなんですよ、だから「この男つまんないなぁ」って思っちゃって(笑) その時期は、池内くんの颯爽としていて明るいところを歩いているような感じが新鮮でかっこよくて好きでした。でもね、昔は上原くんが何考えているかわからないって思っていたんだけど、上原くんが研究の道に行きたいって言い出してからは、頑張っている彼を応援したいなと思ってまただんだん好きになっていきました。 そして逆に池内くんが何を考えているかわかんなくなって、今は宇宙人に見えています(笑)
田舎: あはは(笑)
菜緒と上原くんは、中学時代の同居(!?)を経て、現在は大学生で半同棲中の普通のカップル。一緒に住んでる状態のことをもちろんずっと両親に内緒にしていた菜緒だけど、ある日突然、お父さんが部屋に来て…!?
(C)高須賀由枝/集英社
引用元:Comee.net
同時連載の大変さ
田舎: 交互に2作品を連載されるというのはやっぱり大変ですか?
高須賀: 正直、交互に描くのがすごく大変です。一本をずっと描いているより全然大変ですね。
田舎: 先生の頭の中で二つの話が同時に進んでいるわけですもんね。
高須賀: もうW連載をして6~7年経つんですけど全然慣れないです。頭の切り替えがものすごく大変で、ひとりでは切り替えられないので、担当さんと打ち合わせをすることで切り替えている感じですね。
田舎: 切り替えられないというのは具体的にどういう感じなんですか?
高須賀: 例えば、今月は『グッドモーニング・キス』を描くってなった時に、前回(先々月)の話を覚えていなかったりするんですよ。一旦『コミンカビヨリ』を挟んでそっちに集中してしまっていますから(笑)なので、「あれ?前回って何を描きましたっけ?」って担当さんに聞いて思い出すんです。2つの世界を行き来しているので大変ですね。
田舎: かなり大変そうですね!2つともキャラクターも設定も全然違うから、頭ぐちゃぐちゃになりそう……。
高須賀: そうなんです。菜緒を描いていてもちょっと萌っぽさが混じっちゃう時があったり、もちろん逆もありますし。でも二人はまったく違う人間なので、それはかなり気を付けています。
田舎: 他にも描くときに気をつけている事はありますか?
高須賀: ちょっと近い話なんですけど、全部自分で作ったキャラクターなので、どうしても似てしまうんですよ。でも本当は、「似ているけど違う」っていう風に描きたいんです。例えば、担当さんと打ち合わせしていて「菜緒はこういうこと気にしないと思うんですよ、でもまりなだったら気にすると思います」のような会話が出てくると、キャラがしっかり確立しているなって思えるんです。でも全員自分自身から出てきている人たちだから、なんか雰囲気が似てしまうんですよね。その中でどう区別をつけるかっていうことは意識してやらないと、みんな似たような考えや価値観を持ったキャラクターになってしまうので……。
田舎: かと言って全員の価値観をバラバラに描けばいいってものでもなさそうですよね。
高須賀: そうなんです。例えば『コミンカビヨリ』だと、萌と佐野と若ちゃんと正子は、みんな友達同士なので気は合う人たちだから、ものすごく突飛な価値観とかではなくて、みんな共通の通じ合えるものがあるから仲いいわけなんですよ。だから共通の空気感とか通じ合えるものがありながらも、全員が違う人格で価値観もそれぞれ違っていて、それでも仲良いっていうのを嘘くさくないように描かないといけないんです。その人達は絶対に相容れないでしょっていう風になっちゃうといけないから。
田舎: それはかなり絶妙なバランスというか、めちゃくちゃ難しそうですね……。
ここに注目して読んでほしい!2作品のウラ話
田舎: 『グッドモーニング・キス』や『コミンカビヨリ』には、注目してほしいポイントやこだわりなどはありますか?
高須賀: いろいろあります! まず『グッドモーニング・キス』の方は、上原くんが大学院から研究者になりたいって言うんですけど、でも文系の私にとって理系の大学院ってまったくわからない世界なんですよ。何年行くものかも知らないくらいでした。だからほんのちょっとだけの描写でもしっかり取材をしているんです。最初は話を聞いても全然分からなかったんですけど、継続的に交流していくうちに研究者とはどういうものなのかがだんだんわかってきたので、それを上原くんに投影したいと思っていて。その描写はストーリーの本筋とは関係ないんですけど、私としてはこだわって描いている部分なので注目して見て欲しいです。
田舎: 本筋に大きく関わらない部分でもしっかり取材してこだわりを持って描かれているんですね。
高須賀: 読者さんはそこまで興味ないかもしれないですけどね(笑)それがひとつです。
田舎: 他にも何かこだわりがあるんですか?
高須賀: はい、上原くんがどれだけ菜緒のことを好きか、というところですね。
田舎: え? どういうことですか?
高須賀: 菜緒が上原くんのことを大好きなのは見てすぐに分かることだと思うんですけど、私のこだわりとしては、本当は上原くんの方が菜緒のことを大好きだというところがあります。
田舎: ええっ! いや、もちろん付き合っている二人ですし上原くんも菜緒のことが好きだってことはわかっていましたけど、菜緒の方が何倍も上原くんのことを好きだと思っていました。
高須賀: 多分、菜緒は上原くんじゃなくてもなんとかなるんですよ。他の男の人が相手でも別に大丈夫だと思うんですよ、あの子は。上原くんのことが大好きなのは本当なんですけど、ああいう性格の子なので切羽詰まっていないというか、割とあっけらかんとしているんですよね。でも私の中では、上原くんは菜緒じゃないとダメっていうこだわりがあって、それを今後はじわじわ描いていきたいなと思っています。
田舎: それって意外とみんな気づいていないことですよね。裏設定というか。
高須賀: 「男の人にめちゃくちゃ大事にされてめちゃくちゃ愛されている」って女の子の夢じゃないですか。それを描きたいのかもしれないです。でも「上原くんは菜緒じゃないと嫌で、菜緒以外の人を好きになることはない」って思っているつもりで描いているんですけど、それってもしかしたらイケメンが私のことをずっと好きでいてくれるっていう夢を投影したいだけなのかなとも思います(笑)
田舎: あはは(笑)上原くんの方が気持ちが大きいかもしれないというのは、いつ気づいたんですか?
高須賀: それは実は『グッドモーニング・コール』の時からずっと思いながら描いていたことなんですけど、それを今の担当さんに言ったら「それはそこまで頭の中で考えているなら描かないと読者には全然わからないからちゃんと描いた方がいい」って言われたんです(笑)だから今その感じをじわじわと出していっているところです。
田舎: すごい話ですね! 激レアの話が聞けました。これはいち読者としても本当に嬉しいウラ話です! 『コミンカビヨリ』にもそういうウラ話はありますか?
高須賀: ウラ話とはちょっと違うかもしれないですけど、超ハイスペック人間の池内くんが萌のようなごく普通の女の子のことが好きで、そんな超ハイスペック人間に好かれていることが萌は嬉しいという構図なんだけど、萌も池内くんのことをちゃんと好きなのかどうかっていうところがまだ描けていなくて。
田舎: たしかに! ほんのり好きそうな描写はありますけど、どれくらい好きなのかとか、本当に好きなのか、とかはわからないですね。
高須賀: それは池内くんもなんですよ。池内くんも萌のことを気に入ってはいるけど、本当に愛しいという気持ちなのかどうかっていうのはまだちょっとわかんないんですよね。だから今後は、池内くんのダメなところを描いていこうかなと思っています。完璧人間に見えていたけれどけっこう決定的なダメな部分が発覚して、だけど、ダメなところがあるからこそ愛しくなるっていう感じを描いていくつもりです。そしたら二人がお互いを気に入っているだけの状態から徐々に愛しいという気持ちをお互いに持つようになって、二人の気持ちが通じ合っていくのかなと思います。だから今二人は付き合っているんだけど、気持ちと気持ちが通じ合ってはいないので、そこを通じ合わせたいなと思ってます。
田舎: なるほど!それはすごく楽しみです!!
一生描き続けたい『グッドモーニング・キス』
田舎: すごい話がたくさん聞けました……。今すぐ誰かに自慢したいくらいです(笑)本当に僕は『グッドモーニング・キス』も『コミンカビヨリ』も大好きで、ずーっとこのまま死ぬまで読み続けたい漫画です。僕が死ぬまで終わらないでほしい(笑)
高須賀: そう言っていただけると嬉しいです! 私の願望では、今後もし集英社さんの雑誌で他の新作を描くことになっても、『グッドモーニング・キス』は終わらせないでずっとダラダラと続けていきたいと思っています。上原くんと菜緒に孫ができるくらいまで描き続けたい。
田舎: うわー! 最高すぎますよ、それは! 主人公はもちろんずっと上原くんと菜緒のままで、ってことですよね?
高須賀: そうです。主人公は変わらずあの二人のままで、ずっと二人の人生を描いていきたいです。原稿を描いているときも、私は今“二人の人生”を描いているんだって思うとすごく楽しくなってくるんですよ。多分これからも相変わらず大きなトラブルとかは起きないんですけど、結婚するとか、子供ができる・できないとか、そういう時にこの二人がどういう風に行動するのかなっていうのをずっと考えていきたいです。でも、私がずっと描きたいと思っていても、読者さんに読んでいただけないと続けられないですからね(笑)なのでこれからもずっと頑張るので、ずっと応援していてほしいです。
田舎: そうですね! 僕はこの先も上原くんと菜緒の人生を絶対に読み続けたいですし、読者の皆さんもそうだと思います! だから皆さん、『グッドモーニング・キス』をこれからも読み続けましょう! それが直接、高須賀先生への応援になりますからね。 高須賀先生、今日は本当にありがとうございました!
高須賀: ありがとうございました!
まとめ
今回のインタビューは、ものすごく貴重なお話が飛び出しまくりでした……!
伝説の少女漫画家、高須賀由枝先生とお話をさせていただけるだけでも非常に幸せなことなのに、さらに作品にまつわるウラ話なども聞かせていただいて、本当に最高の時間になりました。
ちなみに実際にお会いしてお話をした高須賀先生は、僕の中ではグッドの菜緒ちゃんがそのまま飛び出てきたような可愛らしくてのほほんとした方だったのですが、先生ご自身が言うには「どちらかと言えば萌のようなタイプ」だそうです。
そしてさらに、お忙しい中、サイン本をプレゼントしてくださりました……!
菜緒ちゃんと萌さんです。
本当に嬉しすぎます。
さらに、お忙しい先生なのでその場でサイン色紙をいただくことは出来なかったのですが、後日サイン色紙を書いて送ってくださるそうです!
それを楽しみに毎日仕事を頑張れています。
連載中の2作品に関しても、インタビュー内で高須賀先生が仰っていたように、『グッドモーニング・キス』では上原くんがどれだけ菜緒のことを好きなのか、『コミンカビヨリ』では萌と池内くんの気持ちがどうやって通じ合っていくのか、今後の展開がさらに楽しみになりました!
やっぱり、作者さんのこだわりや想いを知った上で作品を読むと、作品から感じることの深みが全然違うと思うんです。
この記事を通して、少しでも読者様に高須賀先生のこだわりや想いが伝われば幸いです。