共感では理解できない鬱病の怖さ 『うつを甘くみてました』を脳科学者・茂木健一郎氏の言葉から考える

共感では理解できない鬱病の怖さ 『うつを甘くみてました』を脳科学者・茂木健一郎氏の言葉から考える
     

サブカルクソ研究者。
英文学・言語学・メディア記号論を専攻。
新聞社を退職後、翻訳補助を通じて総合文化研究に携わるも、中の人がどオタクであった為に、研究対象は漫画、アニメ、ゲーム等に限られる。Twitter→@semiotics_labo

   

今年、あるエッセイ漫画がネットで話題となりました。

 

引用元:Comee.net

 

著者・ブリ猫。氏の鬱病との10年の闘病生活を描き、pixivで150万PVを集めた実録漫画『うつを甘くみてました #拡散希望 #双極性障害 #受け入れる #人生』です。

ハッシュタグ付きが正式タイトル、めっちゃ長い。

 

『うつ甘』は、鬱病を克服する漫画ではありません。
鬱病がどういう病なのかを理解する漫画、と説明するのが適切でしょう。

鬱病をテーマにした漫画と言えば、田中圭一著『うつヌケ~うつトンネルを抜けた人たち~』が有名ですが、『うつ甘』は言わばトンネルの中からのレポートであり、

 

なぜ灯りを持たなかったのか、と咎めるのか?

出口はすぐそこだから頑張って、と励ますのか?

こんな所でずっと辛かったね、と慰めるのか?

 

暗がりでうずくまっている人に何と声を掛けるか、その心構えが読者に問われるのです。

今回は、『うつを甘くみてました』に描かれる障害への相互理解の難しさを、脳科学者・茂木健一郎氏の言葉を引用しながら考えていきたいと思います。

鬱病は共感では理解できない

脳科学者・茂木健一郎氏が指摘する「共感」の認知プロセスの欠点

『うつを甘くみてました』は、美容サロンを運営していたブリ猫。氏が、夫の浮気発覚をきっかけに、パニック障害と鬱病を発症した所から始まります。

その後、夫の謝罪で浮気問題は解決しますが、症状は改善せず休職。
双極性感情障害(2018年より双極症)と診断され、担当医の指導でメモしてきた認知療法のノートを元にpixivで『うつ甘』の連載を始める、というのがの大まかな内容です。

夫との溝が埋まらず幾度も衝突した結果、自傷行為、薬の過剰摂取(オーバードーズ)、自殺未遂、過呼吸で救急搬送と入院を繰り返す、この漫画で描かれるのは、鬱病の当事者と、それを支える周囲の人々の相互理解の難しさです。

 

なぜ両者の認識の溝は埋まらなかったのか?

 

 

脳科学者の茂木健一郎氏は、ミラーシステムという人間の脳に備わっているとされる認知プロセスから、「相互理解は不可能」とする前提のもとでコミュニケーションを行う事を度々説いています。

茂木健一郎 公式ブログ
共感を通した他者理解の可能性と限界

 

 

引用:Makak_neonatal_imitation-Wikimedia Commons

 

ミラーシステムとは、人間の脳(前頭葉)で行われているとされる、相手の感情をまるで鏡のように写し取る「共感」の作用の事です。
マカクザルの脳内で実際に確認された鏡合わせの行動を起こす細胞・ミラーニューロンが、ヒトの脳にも存在し共感作用と関係しているであろうと推測され、脳科学者によってミラーニューロンシステム、略してミラーシステムと名付けられます。

茂木氏によれば、人間の脳の認知プロセスは自分の感情スペクトラムの偏りに限定されがちで、おおよそ「共感」できない事に対して理解を得る事は困難だとしています。

必要なのは「共感」ではなく「理解」

『うつ甘』のケースを考えると、夫の鬱病に対する理解が、家事の負担によって生じた「負」の感情に妨げられており、それは生活の質の向上でしか解決できませんが、現実として病気で床にふせる妻が夫の要望に応える事は難しく、従って病気への理解も得られない、という複雑に絡み合った問題である事が伺えます。

生活支援は国の問題であって、個人の問題ではありません。

我が国では景気・経済の回復を重視する政策を取り、社会全体が上ばかりを向いている中、足元に転がるこうした支援の拡充は捨て置かれているのが現状で、「なるべく個人で頑張ってね」というスタンスを取っている為、いわゆる自己責任論が世論を形成している有様です。

 

引用元:Comee.net

 

吉川景都著『子育てビフォーアフター』でも触れられているように、当事者の苦労は、自分が当事者になってみないと分からないもので、この認知を阻害する要因の事を、認知研究においては、電気工学者・シャノンの通信モデルに当てはめて「ノイズ」と呼んだり、解剖学の権威・養老孟司氏の名著から「」と呼んだりします。

「共感」できない事を「自己責任」として当事者に丸投げするのは、もし自分が同じ立場になった場合に、同じ「壁」に阻まれる危険性を秘めている訳です。

『うつ甘』は、相手の立場に立ち、相手に寄り添って考える事を教えてくれます。

この記事の筆者も、浮気した夫を助走をつけてぶん殴りたいと思っていますが、この夫は夫で鬱病に10年間寄り添った当事者の1人であり、それを理解した上でぶん殴るかどうかを決めるのが正しい判断だと考えています。

必要なのは「共感」ではなく、「理解」なのです。

引用:作者pixiv「理解を得るというコト」

 

引用:作者pixiv「周囲の理解の難しさ」

知っておきたいヘルプマークの意味

最後に、誰でも簡単に出来そうな相互理解の方法が、著書の中で具体的に取り上げられていましたので、それをご紹介しておきましょう。

 

引用:Help_Markー Wikimedia Commons(最終閲覧日:2018/10/02)

 

この赤いマークは、目には見えないハンディキャップを見える化した視覚記号「ヘルプマーク」と言います。

これを掲げている人は、周囲の人達の支援や配慮を必要としており、身体障害者標識(四葉マーク)やマタニティマークと同様の、相手への理解を促す意味を持ちます。

東京都福祉保健局によれば、ヘルプマークを都道府県単位で導入している自治体は1都1道2府16県(平成30年2月末現在)、また障害者の就労支援を行う民間の調査では、ヘルプマークの利用率はわずか2割に留まったそうです。

まだまだ普及には至らず、というのが現状ですが、『うつ甘』を読んでその内容に共感された皆様には是非、相互理解への第一歩として、ヘルプマークの意味を覚えていて欲しいと願います。

認知プロセスは1人ひとり異なります。
他国語には語学の理解が必要であるように、論理式には数学の理解が必要であるように、目に見えないハンディキャップにも相応の教養が必要なのは、現代社会で生きていく上で今や当たり前の事です。

1人ひとりが障害への理解を深め、基礎知識として広く認識していく事こそが肝要であると思います。

まとめ

共感では理解できない鬱病の怖さを、『うつを甘くみてました』から纏めてみました。

筆者は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病で近しい人を亡くしました。
(『宇宙兄弟』のシャロンおばちゃんがかかった病気です。)
ALSは遺伝性で発症する事もある為、決して他人事ではなく、介護支援を通じて障害への理解を深める啓発活動を行っています。

ダイバーシティ(多様性)にはまだまだほど遠い社会。
障害を障害とせず、多様性の1つとして認める時代が来ると良いですね。

 

\うつ病患者、そしてその家族までもが共感の嵐/ pixivで150万PV突破の実録エッセイ!!! 「終わりのない闘病だけど独りじゃない」 ★精神科医・ゆうきゆう(「マンガで分かる心療内科」)、推薦&解説!! 「自分を責める、すべての方に読んでほしい」 本書を読むと…… 1安心できる! うつ病の肯定、サポートする患者家族の視点 2学べる! ヘルプマーク、自立支援医療制度、障害年金……etc. 3繋がれる! 読者が書籍そのものに書き込み、それをSNSでつぶやいたり拡散したくなる仕様 ★著者より 私は夫の浮気がきっかけで、うつ病を発症。そして双極性障害となり、はや十数年たちました。双極性障害は躁とうつが入れ替わる心の病。きっかけも症状も、ホントさまざま。この本は病気克服の成功体験本ではありません。あくまでも、あくまでもイチ事例書として読んでみてください。 ※サイン色紙プレゼント企画は紙の書籍からの応募に限った企画です。ご注意ください。

引用元:Comee.net

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