【インタビュー】元・東大生のゲーム大好き漫画家・ゆずチリ先生に漫画(とゲーム)に対する思いを存分に語っていただきました!

【インタビュー】元・東大生のゲーム大好き漫画家・ゆずチリ先生に漫画(とゲーム)に対する思いを存分に語っていただきました!
     
元少女漫画大好き芸人。
少女漫画歴22年、生涯で10000冊以上、5000作品以上の少女漫画を読んでいます。
男りぼんっ子です。男目線で少女漫画の魅力を語ります。
   

田舎はるみの「漫画家さんインタビュー企画」第11弾!

2013年に現役の東大生でありながら漫画家デビューも果たしたゆずチリ先生。

その後も数々の作品を生み出し、現在はサンデーうぇぶりにて2本(内1本は原作のみ)、くらげバンチにて1本、合計3本の連載をこなす人気漫画家さんです。

前回Comee mag.でもゆずチリ先生の『姫乃ちゃんに恋はまだ早い』の紹介記事を書かせていただきました!

 

 

ご多忙な日々を送られているゆずチリ先生ですが、今回時間を作ってくださりインタビューの実施が叶うことに!
元・東大生の人気漫画家、といろんな意味で天才なゆずチリ先生の頭の中を覗かせてもらいました。

 

【プロフィール情報】

ゆずチリ@yuzuchiri
2013年に「小学館ゲッサン編集部 新人賞 準グランプリ」を受賞。
同年、「小学館新人コミック大賞」に入選し、東京大学に通いながら、『ゲッサンmini』にて『妹観察日記』で漫画家デビュー。
2014年には初の連載作品となる『忍者シノブさんの純情』を『ゲッサン』12月号より開始。
2018年5月、pixiv月例賞を受賞。現在も多数の連載作品を描いている。

 

突然志した漫画家という夢

田舎: ゆずチリ先生、はじめまして! 今日はよろしくお願い致します!

ゆずチリ: よろしくお願いします!

田舎: それでは早速ですが……、東京大学に通いながら漫画家デビューを果たしたという変わった経歴をお持ちのゆずチリ先生ですが、そもそも漫画家を目指したきっかけは何だったんですか?

ゆずチリ: 直接の大きなきっかけは、中学1年生のときに友達がノートに描いた4コマみたいなちょっとした漫画を見たことです。それを見たときに、「あ、漫画って誰でも描けるんだ!」って思ったんですよ(笑)

田舎: 「自分でも描いていいんだ」と思ったということですか?

ゆずチリ: はい。それまでは、「漫画というのは生まれ持った才能がある選ばれし者にしか描けないものだ」と勝手に思っていたんですけど、普通の友達が趣味程度にノートに鉛筆で描いた漫画を見たときに、「漫画って別にこれでいいんだ!」って初めて気づいたんですよ。それが13歳くらいのときで、それまでまったく漫画を描いたことがなかったんですけど、「今から本気でやれば自分にも描けるかもしれないな」って思って。

田舎: けっこう珍しいきっかけですね!

ゆずチリ: そうですね、よく言われます。昔から絵を描くのが大好きで自然と漫画家を目指すようになったんじゃなくて、ある日突然「漫画家になろう!」って思って急に勉強を始めた感じです。

田舎: 一度も描いたことがないのに急に「今から始めても本気でやれば間に合うかも」って思って本当に始めちゃったってことですよね。すごい!

ゆずチリ: まさにそうです。もちろん友達の漫画を見たことだけではなくて、ちょうどその頃にあだち充先生の作品に出会ってめちゃくちゃハマったこともきっかけでした。その2つのきっかけが重なって「俺もこの世界に入りたい!」って思うようになりました。それまでは将来の夢とかもなくて、毎日ゲームばっかりして過ごしていたんですけどね(笑)

田舎: あだち充先生の漫画と、お友達の漫画が、ゆずチリ先生の人生を大きく変えたんですね。

ゆずチリ: そうですね。その後はもう単純で、急に学校の先生とか友達とかに「俺、漫画家になるわ」って言い出して、それから僕もその友達のマネをしてノートに漫画を描くようになって、中学三年生くらいの頃にはノートじゃなくて漫画の原稿用紙に描いていました。

田舎: 中学三年生の頃にはもう本格的に描いていたんですね! ゆずチリ先生が漫画を描くきっかけとなったお友達の方も漫画家を目指していたんですか?

ゆずチリ: いえ、そういうわけではなく、ただ漫画とかアニメが好きで描いていただけだったと思います。本当にどこにでもいる普通の中学生だったんですよ、僕もその友達も。

田舎: 運命的ですね。そのお友達がいなかったら、先生は漫画家になりたいって思っていなかったかもしれないですもんね。

ゆずチリ: 本当にそうだと思います! そこから計算をし始めて、「10年くらい頑張り続ければ24,25歳くらいにはちゃんと描けるようになるんじゃないかな」って。それを見越して、目指し始めました。

田舎: えっ! 10年後までのプランを考えていたということですか?

ゆずチリ: いやいや、プランというか中学生の浅知恵みたいなものですよ(笑)10年もあれば今からでもなんとかなるだろうっていう根拠のない浅い考えです(笑)

田舎: なるほど(笑)実際に漫画家デビューされたのは何歳の頃だったんですか?

ゆずチリ: 大学入って2年くらいかなぁ。20歳か21歳くらいです。デビューって言っても、読切が小学館の雑誌に載ったというだけなんですけど。

田舎: ということは、結果的に10年足らずして漫画家デビューを果たしたわけですね! すごいです!

東大での学生生活を半自伝的に描いた『漫画学科のない大学』

 

実録!東大生…漫画家を目指す!

春―――見事に最難関・東京大学に合格した男、くずチリ。
彼の将来の夢は、官僚になることでも、大企業に就職する事でもない。
彼の野望はなんと……「漫画家になる」こと!?!?

(C)ゆずチリ/小学館
引用元:Comee.net

 

 

田舎: ゆずチリ先生は、東京大学に通いながらデビューされたんですよね。 『漫画学科のない大学』を読ませてもらったんですけど、あの作品は一応、くずチリという架空のキャラクターのフィクションという設定になっていましたが、完全にゆずチリ先生のことですよね?(笑)

ゆずチリ: あはは(笑)あれは、フィクションという体(てい)でやってるんですけど、一応僕の経験を元ネタとして描いてる漫画です。

田舎: ということは完全ではなく半自伝的くらいの感じですか?

ゆずチリ: そうですね、だから「この時期に担当さんがついて~」とかは実際の時期とぼんやり合わせてはいるんですけど。留年した話とかも。でもまぁ中身やキャラクターはもちろん創作です。

田舎: 大学生活を漫画にしようというのはいつから考えていたんですか?

ゆずチリ: 元々は全然何も考えてなくて、『漫画学科のない大学』を連載させてもらってる『サンデーうぇぶり』を立ち上げるときに、「何か描いて」って言われたんですよ。「何でもいいから何か描いて」って。

田舎: 立ち上げのときから描かれているんですね! 「もう自由に何でも描いていいよ」みたいな感じだったんですか?

ゆずチリ: はい。それで悩んでいたら編集さんから、「キミ、東大生だったんだからそれを描けばウケるんじゃない?」っていう提案がありまして。物は試しだと思って描いてみたら、「じゃあこれでいきましょう」ってOK貰ってそのまま連載になりました。

田舎: じゃあ当時のことを思い出しながら描かれたんですね。

ゆずチリ: もう最近では、「何があったっけ?」って本当に思い出せないくらいになってますけど(笑)

田舎: 学生当時にはまったくネタを書き溜めてなかったんですか?

ゆずチリ: 当時は学生生活がネタになるなんて思っていなかったし、なんなら「漫画家になっても東大生ってことは隠していこう」と思っていたくらいなので。それなのに編集さんが明かしていこうぜって言うもんだから、じゃあしょうがないかって感じで(笑)

田舎: あはは(笑)でも結果的にそれがものすごく面白い内容になったわけですよね!

ゆずチリ: あ、そうですか、ありがとうございます!(笑)あんまり読者の方からフィードバックが返ってこないのでどんなものなのかなって思っていたんですけど。

田舎: すごく面白いですよ! 作中には、くずチリが描いた漫画が数ページ出てきますよね? あれは実際にゆずチリ先生が大学時代に描いた漫画ですか?

ゆずチリ: あれはそうですね、当時のものが一応残っているので、スキャンして取り込んで載せました。スキャンして貼り付けるだけなので、これで原稿料もらっちゃっていいのかって思いましたけどね(笑)

田舎: 描くのに比べるとだいぶ楽な作業ですもんね(笑)でも読者の方にとってはすごくレアなものが見れて嬉しいページだと思いますよ!

“ゆずチリ”から乖離していく“くずチリ”というキャラ

田舎: あと気になったのが、『漫画学科のない大学』って作中にすごく勉強になるような言葉がいっぱい出てくるなと思ったんですよ。例えば、『将来漫画の役に立つかもを理由にして色々していたらキリがない』とか。すごく納得しました。

ゆずチリ: でも正直言うと、僕みたいな漫画家として全然偉くもないデビューしたてのド新人が、漫画の中で偉そうなことを語るっていうことに最初はめちゃめちゃ抵抗があったんですよ(笑)例えば、あだち充先生が漫画の中でそう言ってくれるんだったらすごくありがたいお言葉なんですけど、でもそうじゃないから(笑)だから、あれはあくまでも漫画の中のくずチリっていう大学生のキャラクターが思っている人生観を描いているだけということで折り合いをつけて描いていて、結構気を使ってる部分ではあります。くずチリというキャラがだんだん僕と乖離していってて……。

田舎: 先生の分身というよりはもうくずチリが独り歩きしてる感じですか?

ゆずチリ: くずチリって毎回毎回すごく偉そうなことを言うじゃないですか。僕はそこまで思っていないし、そもそもあんなキャラじゃないんですよ(笑)たしかに多少はくずチリみたいなことを思っていますけど、あんなニヒルな感じではないですし(笑)でもそれがあの作品のテンプレート的なものになってきちゃってるから、編集さんからも「今月は何か一言ないんですか?」的な感じで言われます(笑)

田舎: たしかに毎回ひとつは格言のようなものを残しますよね、くずチリは(笑)

ゆずチリ: そうなんですよ(笑)僕的にはあまり深い格言のようなことを断言したくはないんですけど……。でもくずチリは「言い切るヤツ」っていうキャラなので、そう描いてるって感じですね。

田舎: あくまでもゆずチリ先生の考えとは違って、あれはくずチリの格言ということですね!

ゆずチリ: そうです! でもくずチリも誰かに対して生き方を指南したり押し付けたりするわけではなくて「僕はこう思って生きる」ということを言っているだけなんですよね。

田舎: 確かに言われてみると、くずチリの言い方って、こうしろとかああしろではなくて「たしかにこういう考え方もあるけど、でも俺はこうなんだ」っていうスタンスですもんね。

ゆずチリ: そうですね。さっき僕とは別人だって言いましたけど、そのへんの指針とかは僕と近いものはあるかなって思います。例えばさっきの中学時代の話の「俺は10年後に漫画家になる!」みたいに、自分の中で強く決めて貫きたいみたいなところがあるんですよ。それが正しいかはわからないんですけど、「僕がそうするって決めたから、そうします」っていうタイプなんです。だからある意味、人に生き方のアドバイスも求めていないし、誰かにアドバイスしようなんていうつもりも一切ないんです。生き方って人それぞれだと思うので、あくまでも生き方の一例としてくずチリの生き方をお見せしてるっていう感じです。

田舎: じゃあ参考程度に、という……。

ゆずチリ: そうです! あくまでも参考程度に(笑)

本格連載始動!『姫乃ちゃんに恋はまだ早い』

 

(C)ゆずチリ/新潮社
引用元:くらげバンチ

 

田舎: 以前Comee mag.でも紹介させていただいた姫乃ちゃんに恋はまだ早い』ですが、 8~9月の短期集中連載を経て、『くらげバンチ』にて10月26日から本格連載開始ということで、おめでとうございます! 僕、大好きで今まで公開されている分は何回も読んでいます!

 

 

ゆずチリ: ありがとうございます!

田舎: ヒロインの姫乃ちゃんのツンデレな感じがすごく可愛いですよね。姫乃ちゃんはどんなイメージで作ったキャラですか?

ゆずチリ: なるべくみんなの中にいる“小学生女子像”をなぞるつもりで描き始めました。だから「自分が小学生のときって女子はどんな感じだったかなぁ」とか思い出しながら描いているんですけど、実際に自分の周りにこんな女の子がいたのかどうか怪しくなってきてます(笑)最初は女子あるあるキャラとして描いていたけど、もしかしたら自分の妄想の中にしかいない女子を描いているんじゃないかという気すらしてきました(笑)

田舎: こんな女の子いたなぁと思って描き始めたけど、そうじゃなかったということですか?(笑)

ゆずチリ: 厳密に言うといなかったかもしれないですね(笑)いたとしても僕は立ち位置的にああいう女の子を視界の隅で見ていたんだと思います。だから妄想が働いているのかもしれないです。もしかしたら読者さんもそういう妄想が働いて読んでいるのかもしれないですね。「あぁ、こういう小学生時代よかったなぁ、戻りたいなぁ」みたいな。本当はいなかったのに、あたかも小学生時代に戻ったら姫乃ちゃんみたいな子がいるかのような(笑)でも誰しもがそういう錯覚をもっていると思うんですよね。

田舎: なるほど。たしかに言われてみると僕も妄想込みで勝手に懐かしくなって読んでいたかもしれません(笑)そもそも姫乃ちゃんを描こうと思ったきっかけはあるんですか?

ゆずチリ: 小学生をテーマにしたマンガは昔から描きたいなとは思っていまして。デビュー作も小学生の話なんですよ。何か思想があるわけではないんですけど、小学生のラブコメが好きなんですよね。ラブコメというか、まだラブにもなっていないような段階の微笑ましい話が。多分自分の中に「こうであってほしいな」という思いがあるんですよね。

田舎: 純粋さとか無邪気さが綺麗ですよね、小学生の恋愛話って。

ゆずチリ: そうですよね。多分僕は逆に大人の恋愛は描けないんですよ。どっちかというと恋愛初心者の恋愛下手な感じの方が好きで、僕のほとんどの作品がそういう枠に入ってると思います。

田舎: 『忍者シノブさんの純情』とかもそうですよね!

ゆずチリ: そうですね。あれは高校生の女の子のお話ですけど、忍者の女の子だから恋愛は初心者でっていう感じで。小学生の場合は小学生なんだから恋愛が下手でもいいよねって思いながら描いてます。だから小学生くらいの不器用な感じとか一途な感じとかが好きなのかなと思います。

田舎: なるほど。姫乃ちゃんと逢司(おうじ)くんの今後がすごく楽しみです!

ゆずチリ: 姫乃ちゃんはまだまだこれからの作品ですので、今後を期待しながら温かく見守っていてください!

▶Page.2:大好きなゲームをヒントに漫画業界の流れを考える!?ゲーム大好きなゆずチリ先生ならではの理論は次ページで!

 

特集・インタビューカテゴリの最新記事