「ヨルムンガンド」×「暴力の人類史」に学ぶ戦争論。~ヒトは何故争い、いつまで争うのか~

「ヨルムンガンド」×「暴力の人類史」に学ぶ戦争論。~ヒトは何故争い、いつまで争うのか~
     

某学会に所属する人類学者。
専門は、生物学・脳科学・人類学の観点から政治・経済・社会の進化を考える総合科学。
太陽が好きだけど夜景も好き。自然も文明も感じることができるから。

   

武器商人であるココ・ヘクマティアルは、世界中の紛争地帯を回って武器を売る。
その結果、各地で戦争の火種が大きくなるが、それでも徹底的に売り渡る。

ストーリーの終盤で、ココが武器を売る理由がようやく明らかになる。
それは、武器を売った資金でスーパーコンピューターを開発し、世界中の軍事コンピューターをハッキングし、その機能を止めることで世界中の紛争を完全になくすというものだった。

 

『ヨルムンガンド』とは?

『ヨルムンガンド』は、武器商人であるココ・ヘクマティアル(20代前半の白人女性)が世界中の紛争地帯を飛び回って各国の軍隊や武装集団を相手に武器を売り渡る物語。
戦争によって両親を失ったことで武器を憎む少年・ヨナを私設部隊に招いたところから物語は始まります。

ココの部隊には元デルタフォース(アメリカ陸軍特殊部隊)や元フィンランド国防軍緊急展開部隊少佐、元防衛省情報本部秘密部隊特別研究班、元イタリア陸軍情報担当少尉、元警察対テロ部隊の狙撃手などの精鋭が集っています。
ヨーロッパ、アフリカ、アジア、欧米などが舞台となり、アメリカの中央情報局(CIA)に追われながら世界中で武器を売り渡ります。

そんなココは、物語の中盤から3人の技術者と関わりを持つようになります。
ロボット技術のスペシャリストである天田南博士、物理博士・量子光学の権威であるエレナ・バブーリン博士、そして量子物理学のレイラ・イブラヒム・ファーイザ博士。
長年の付き合いである私設部隊の仲間にすら内密にして開発していたのは、量子コンピューターでした。

ココの目的が舞台の仲間たちに語られるのは、物語の終盤。

語られる真意

 

『まず全世界の空を封鎖する!!』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第10巻P174

 

ココの真意を初めて耳にした仲間たちは唖然とします。
しかし続けるココ。

 

『軍事航空、一般航空、宇宙航空、ミサイル、ロケット弾。人間が空を利用することを、全世界同時に禁止する! 私と天田南博士が開発した、量子コンピューターが実現する「ヨルムンガンド」とは、空、海、陸の順の人間の行動制限と、地球上のありとあらゆる物流の完全制御。私のこの手によって造られる、強制的世界平和だ!! そう私の最終目的は、人間と軍事を切り離すことだ。』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第10巻P176

 

仲間たちはとまどいながらも納得の表情をみせます。
しかしそんな中、争いと犠牲を心から憎むヨナだけがココに問います。

 

『何人死ぬんだ?』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第10巻P184

 

その問いに対して、ココは平然と答えます。

 

『確かに全世界同時飛行禁止で犠牲者は出るよ。でもこれから戦争で死んでいくであろう人数と比べるとちょっとなモンだよ。たった70万人 それがどうかした?ヨナ。』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第10巻P184

 

ヨナは激昂してココに銃を向けます。

 

『そんなの絶対にだめだ、ココ!!』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第10巻P188

 

ココは少し驚いた表情をみせますが、淡々と語り始めました。

 

『私が戦場を歩いて感じとった空気……今のままでいくと、10年以内に大きな戦争が起きるよ。第一次世界大戦では4000万人、第二次世界大戦では6000万人、第三次世界大戦では何人死ぬ? 私は世界が大嫌いだよ、ヨナ。どこ行ったって戦争、戦争。道端に死体が転がってて嫌い。武器が嫌い。こんなズルい道具で脅された時の感情、思い出すだけで頭が割れそうになる。軍人が嫌い。特に命令には絶対服従なんて思考停止してる奴とか、ガスで膨れ上がった死体より臭い。人間が嫌い。私も同じ動物なのかと思うと絶望するよ。武器商人である私が嫌い。だが才能があるようで、金はバカスカ舞い込んだ。ある時ひらめいた。この金をすべて平和のために使ってやろう。世界はラッキーだよ。これだけ世界が嫌いな私が、世界の破滅ではなく、世界の修繕を望んだことがね!!』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P15

 

『武器のない世界なら、少しは好きになれるかもしれない。』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P19

 

そんなココの想いとは裏腹に、ヨナはココに別れを告げます。

 

『……さよならココ。』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P25

 

こうして、ヨナはココの元を離れたのです。

ヒトはいつ争いを始め、そしていつやめるのか。人類史からの考察

ココ・ヘクマティアルの目的は、世界の戦争を止めることにあります。
世界中の戦場を見て回ったココにとって、争いは酷く醜く、そして憎むべきものでした。

そんな争いを止めるために、世界の70万人を“必要な犠牲”としたココ。
それに激昂したヨナ。

世界平和の実現のためには、ココとヨナのどちらが正しいのか。
この答えは、争いの人類史を紐解くことでみえてくるかもしれません。

ヒトは、いつから互いに争うようになったのか。
そしていつになれば、争いをやめるのか。
これは、『ヨルムンガンド』という物語の中でだけ生じうる疑問ではないでしょう。
それどころか、私たちが生きるこの現実世界でこそ生じうる疑問だと考えます。

そんな疑問に対して一定の見解を示したのが、ハーバード大学で進化心理学を研究するスティーブン・ピンカー教授です。
スティーブン・ピンカー教授は自身の著書『暴力の人類史』にて、人類の過去1万年の歴史の中で、あらゆる時代、あらゆる国家・地域において暴力の絶対数が例外なく減少してきたことを膨大なデータとともに示しています。

そもそもヒトは何故、他のヒトに危害を加えるように進化したのか。
その答えは、『適者生存』だけではありません。
ヒトの本性には、争いを生む3つの原因が存在します。
それは競争、不信、誇りです。
競争はヒトに利得を求めて争わせ、不信は安全を求めて争わせます。
そして誇りは、名誉を求めてそうさせるのです。
ヒトとそう遠くない共通の祖先をもつチンパンジーもまた、集団で他のチンパンジーの集団(それも、自分たちよりも明らかに小さな集団)を狙うことが確認されています。
ヒトには争う理由があるが、ヒト以前にも争う理由はあったのです。

そんな争いを無くすために造られたのが、国家。
初期の国家は、確かに強力なマフィアが地元民を敵対的な隣接住民から守ることと引き換えに資産を取り立てる“保護恐喝”のようなものだったかもしれません。
ときに国家は国民に対して圧政を強いることもあったが、近代になるとロックやルソー、モンテスキューが主張するように、“国家と国民は(形式的には)対等な関係である”という論理が広がりはじめました。

そして次第に、国家は国民のための“安全装置”として作用するようになります。
しかしそのような国民のための“安全装置”ゆえに、今もなお、国家間の争いはなくなっていません。

これは、現実世界においても『ヨルムンガンド』の世界においても同様です。

『現実世界』と『ヨルムンガンドの世界』

スティーブン・ピンカー曰く、人類の暴力は、1万年の人類の歴史上で疑いようがなく減少しています。

この事実をココ・ヘクマティアルが知っていたどうかは、作中では明らかにされていません。
しかし、争いが減少に向かっていようがいまいが、ココの目に映るのは常に争いに満ちあふれた世界。

ココがヨナに自身の真の目的を伝え、そしてヨナがココの元を離れて2年が経過したところから物語は再開します。
その2年間で、争いによる死者の数は有に70万人を超えます。

 

あのとき「ヨルムンガンド」を発動させていれば、犠牲は最小限に抑えられていた。
そんな葛藤を抱えるヨナに、ココは言います。

 

『2年考えて答えは出たか?ヨナ! 私と世界 頭イカレてるのはどっちだ!!?』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P176-177

 

ココの元を離れて世界中の紛争地帯をみてきたヨナは、その想いを口にします。

 

『僕は世界も、ココも、イカレてると思う。でも僕はココについていくよ。』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P179

 

その答えに、優しく微笑み返すココ。

 

『よし!ならば特等席で見せてやるヨナ!』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P180

 

『ヨルムンガンド―――………発動!』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P182

 

起動スイッチを押すところで、物語は終わります。
その後の結末を示すことなく。

その後、世界はどうなるか。

「ヨルムンガンド」の発動で幕を閉じる物語。
その先にあるのは、必ずしも『犠牲を最小限に抑えた後に平和が実現された世界』とは限りません。

物語の中で、ココと同じく武器商人をする実の兄・キャスパーは「ヨルムンガンド」の発動前にココに対して次のように言っています。

 

『この世から武器がなくなると、本当に思うか?ココ。 航空兵器がダメなら海戦兵器を売ろう。船がダメなら戦車を売るよ。銃を売ろう、剣を売ろう、ナタを売ろう。鉄を封じられたらこん棒を売ろう。それが我々武器商人だ。』

引用:高橋慶太郎/小学館『ヨルムンガンド』第11巻P140-141

 

キャスパーのこのセリフに、ココは言い返せずにわずかに苦しい表情をみせます。

ヒトにとっての争いの本質が競争・不信・誇りにある限り、争いはなくならないのかもしれません。
人類史の中で暴力の数が絶対的に減ってきている反面、人類が開発した武器の殺傷能力は拡大の一途を辿っています。
こん棒であれば1人、銃であれば10人、戦車であれば100人、そして核兵器であれば10億人を殺傷することもできます。

「ヨルムンガンド」の発動は、永続的な平和を約束するものではありません。
発動によって封じられたのは“争う手段”であって“争う意志”ではない。
ヒトに争う意志と本性がある限り、争いがなくならないことはこれまでの歴史が示しています。

今後も存在し続けるヒトの争う意志を、ココは封じ続けることができるのか。
強制的に実現された世界平和は、ココが思っているよりもずっと危ういものなのかもしれません。

 

両親を殺した武器を憎みながらも、武器商人ココの私設軍隊に加わることとなった少年ヨナ。ココはある国の軍と武器の取引をしていたが、それを防ごうとする勢力に狙われる。しかし、ココに同行していたヨナが、自らが憎むその武器でそのピンチを乗り切ろうと応戦して…

引用元:Comee.net

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