田舎はるみの「漫画家さんインタビュー企画」第16弾!
今回は、なんと! 咲坂伊緒先生です!!
以前Comee mag.でも咲坂先生の作品紹介の記事を書かせていただきました。
少女漫画大好きな僕にとって、憧れの大先生。
『アオハライド』が映画化・アニメ化、『ストロボ・エッジ』も映画化され、現在は別冊マーガレットにて『思い、思われ、ふり、ふられ』が絶賛連載中の超人気作家さんです!
今回は少女漫画大好き芸人・別冊なかむらりょうこさんと一緒に、咲坂先生の青春恋愛漫画に込める想いやこだわりなどを中心に、いろいろな貴重なお話をお聞きしてきました!
【プロフィール情報】
咲坂伊緒(右)
『デラックスマーガレット』1999年11月号に掲載された『サクラ、チル』で漫画家デビュー。
代表作は『ストロボ・エッジ』『アオハライド』など。
現在『別冊マーガレット』にて『思い、思われ、ふり、ふられ』を連載中。
2018年に、『思い、思われ、ふり、ふられ』が第63回小学館漫画賞少女向け部門を受賞。
別冊なかむらりょうこ(中村涼子)(左)
ワタナベエンターテインメント所属のピン芸人・中村涼子の別名義。
少女漫画あるあるを盛り込んだ一人コントやモノマネなどで大活躍中!
2017年『女芸人No.1決定戦 THE W』決勝進出。
漫画関連の活動をする際には「別冊なかむらりょうこ」を名乗っている。
毎週月曜日の夜22時からニコニコ生放送にて『 別冊・少女マンガ倶楽部 』生配信。(日時変更あり)
ありのままの高校生を描く上でのこだわり
ストーリーの生っぽさと新鮮さを考える
田舎: 咲坂先生、なかむらさん、今日はよろしくお願いします!
なかむら: 私、先生にずっと聞いてみたかったことがありまして!
田舎: いきなり始まった!!
なかむら: 先生の漫画って全然わざとらしさがないんですよね。
咲坂: うそー。本当ですか?
なかむら: お話が進む中で、登場人物の気持ちってちょっとずつ微妙に変化し続けるじゃないですか。でもその変化を読者側が頑張って追いかけたりしなくても、自然に心の中にすーっと入ってきて感情移入ができるというか、違和感を感じる部分が1個もなくて。そういう部分で描くときに気をつけてることとかあるんですか?
咲坂: んー、生々しすぎると漫画にする意味もないけど、漫画漫画しすぎると読み手が乗っかれないかもしれないっていうのがあるので、いい塩梅があるだろうなって思ってますね。それがどの辺なのかなっていうのは考えて描いています。あと人が微妙な感情を抱えている時、実際に動いていると情報量が多いじゃないですか。でも二次元でみるとそれは伝わりきらないから、微妙な感情をありのままに描きすぎたらきっとダメだと思って、どこまでコントロールするかっていうのは考えたりしてます。うまくできているかどうかはわからないんですけど(笑)
なかむら: 次元を超えてうまくいっていますよ!(笑)これは先生の中では技術だと思いますか? それとも感覚だと思いますか?
咲坂: 感覚を頼りにやってしまっていることが多いですね。でもその感覚が鈍った時にはロジックで補ってみたいな感じですかね。漫画って、「うん。面白いな」って思うものと、「なんかわからないけどすごく好き!」って思うものって分かれるじゃないですか。やっぱり後者って“生っぽさ”がちゃんと残っていて、嘘っぽくない。フィクションだしファンタジーなんですけど、嘘だと思えないぐらいのちょうど良さがあるものばっかりなんですよ。そういうところを描きたいって思っていたのがあるから、自分もそういうのを吸収しているのかなっていうのはあります。
なかむら: なるほど! ちなみにこうやって数々の作品を長期にわたって連載してきて、ひとつも新鮮味が落ちずに描き続けられるのって本当にすごいことだと思うんですけど、これは毎回新たに降りてくるものなんですか? 登場人物が違うと行動も自然と変わってくるものなんですか?
咲坂: あ、そうだと思いますけど、根底にあるのはやっぱり自分の持ち物でしかないので。さっきも打ち合わせで話してたんですけど、私の漫画って基本を分解したら全部同じなんですよ。読み切りも連載も昔から私が描きたいことや言いたいことは多分ずっと変わってないんです。そろそろ新しいものを見つけたりその方法を変えないと次が難しそうだなっていう気はしています。
なかむら: はぁー、なるほど。
咲坂: 登場人物が違うだけで違っているように見えるので、そうやって新鮮味があるって言ってもらえるんだと思うんですけど、やり方はずっと同じもので。変えるのがいいのかどうかはわからないんですけど、それは今後ちゃんと考えていかないと、って思ってます。
なかむら: ……すごい! 本当に!
咲坂: こんなにちやほやしてもらえるなんて思ってなかったです(笑)
なかむら: あはは! 私たちは今まで作品を読ませてもらって、溜まりに溜まり続けている想いをぶつけさせてもらっているだけです!
田舎: そうです。本当に僕、咲坂先生にインタビューできるって決まってから一ヶ月くらい一睡もできなかったですもん!
なかむら: やべーやつだな(笑)
咲坂: あはは(笑)
中二心を忘れずに、恥ずかしがらずに
田舎: 僕『アオハライド』で一番好きなセリフがあって。洸の「だって俺おまえしか好きになった事ねーもん」っていう。このセリフが本当に好きで。12巻の最後でそれを見て、そのあと13巻を読む前に、1巻からまた全部読み返したんですよ。で、「そっか、そういえば洸は双葉以外好きになったことないんだ」って改めて思ってすごく感動しました。連載開始当初からあのセリフは先生の頭の中にあったんですか?
咲坂: あのセリフは最初はなかったですね。ただ、大まかな流れは決まっていても、最後どうやってまとめていくのかっていうのは中盤以降になるとだんだん考えないといけなくなってくるんですよね。その時に出てきたのかな。だから本当に、私が絞り出したというよりは運よく洸がぽろっと言ってくれた、みたいな。
田舎: うわーーーー!!!!!!
咲坂: 本当運に頼っているというか、偶然でしか考えられてないんですよね。
なかむら: 常に向き合い続けているからこそ降りてくるんでしょうね。先生が描く言葉は少女漫画の色が濃すぎる詩的な感じではなく、日常の粗雑に出てきたリアルすぎる言葉でもなく、ちょうど、「これは確かにみんなが思う気持ちだな」っていうのがポンっと出てくるんですよね。『ストロボ・エッジ』でいうと「『好き』が積もった」とか。すごく感動しました。「あ、たしかにこの気持ちに言葉をつけるなら『積もる』だな」って思って。
咲坂: それ、その当時の担当さんにもいいねって言ってもらいました。このモノローグが好きって言ってくれる人が結構いて嬉しかったです。
なかむら: ……とんでもない才能ですよね!
咲坂: 今ふと思ったんですけど、なんでそういうセリフが出るかっていうと、私は心に中二感を残しているからかもしれないです。中高生の頃とかってそういうポエティックなものを考えたりする年頃じゃないですか。そういう、大人だと恥ずかしくなっちゃうようなものをまだ恥ずかしげもなく描けるっていうのは強みなのかもしれないですね。だから中二心を忘れちゃいけないなっていうのは思いますね。
先生が描く色んな“好き”の想い
なかむら: 先生の今までの作品で描いている恋の感情って、本当にいろんな“好き”がありますよね。洸の「おまえしか好きになった事ねーもん」っていうのも一瞬「あれ?」って思うんですよね。だって他の人と一緒にいたり、キスしたこととかもあったし。ふりふら(『思い、思われ、ふり、ふられ』)の朱里とかも好きとか彼氏とかっていう言葉は使うけど、果たして本当の“好き”って何なのかをずっと知らなくて。でも本当の“好き”が訪れたときに、そんな理屈は全て吹っ飛ぶみたいな瞬間があって、主人公たちがそれに気づいて涙する、みたいな。好きという言葉の深みや意味がたくさんあって、本当の好きに気づいた瞬間の感じがたまらないです。
田舎: ふりふらで由奈ちゃんが初めて「好き」って自覚して涙するシーンもやばかったですよね。
なかむら: わかります。えげつなかったです。あと、私はふりふらで先生が読者をはっとさせる描写もえげつなすぎるんじゃないかと思いました!
咲坂: えっ、どこですか?
なかむら: まず4巻で由奈と理央が、「抱きしめていい?」って言ってる夢の中のシーン。「果たしてどっちの夢だったのか?」事件と、その後にもまさかの…! ここの構成のマジックには発狂させられました。
咲坂: えー! よかったです(笑)実は私も自分で思いついたときに「こりゃ良いぞ」と(笑)
なかむら: あはははは! あんなの見たことなかったのでびっくりしました!
咲坂: 良かったです。あのシーンは反応をしてくださる方が多くて。「うれしー!」って思いました。
田舎: 僕も、こういうシチュエーションとか描写はどうやって思いつくんだろうって思いましたね。
咲坂: 考えようと思って出せるタイプの人と、違うことをやりながら降りてくるのを待つタイプの人がいると思うんですけど、私は断然後者で(笑)ロジックで考えるのが苦手だから、他のことをしながら思いつくのに頼ってやってるんですけど、危ないですよねほんと(笑)
経験の投影。恋愛の普遍的な部分を大切に
田舎: 漫画を描く上で先生自身の思い出とか経験が参考になることもあるんですか?
咲坂: ありますあります。全部それの焼き直しみたいなもので。やっぱり、時代が変わってツールは変わっても恋愛に対しての普遍的なものってあるじゃないですか。人を好きになった時の感覚が時代によって変わるわけじゃないんですよ。だからそこをちゃんと踏まえておけばいけるっていうのは思ってます。
なかむら: はぁ~すごい……。ちなみに、先生は鎖骨がキシキシ痛む派だったんですか?
咲坂: あ、私はそうです(笑)ギュッてなって。
なかむら: 鎖骨のところがギュッてなるんですね! 『ストロボ・エッジ』の蓮は鎖骨がギュッと痛む派ですって書かれているから、「え!?」って読み返しちゃいますもんね。最近で言うと、ふりふらの「和臣が鼻をいじる事件」。和臣は鼻をいじると嘘をついている時だって指摘されてて、読み返してみたら「あ!」って。「この時鼻をいじってるってことは……実は逆の気持ち?!」って(笑)
田舎: それは最初から後で明かすと決めてから描かれてるってことですよね。
咲坂: そうですね。和臣が嘘ついてる時に鼻をいじるっていうのは最初の設定でもう決めてあったんです。
田舎: 最初からですか! 当たり前ですけど、全然気づかず読んでたので明かされたときはびっくりしました!
ふりふらのメインキャラへの想い
なかむら: 正直、先生がふりふらの中で一番「めんどくせーやつだな」って思うのは誰ですか?(笑)
咲坂: 性格的にめんどくさいのは朱里なんですけど、それを描くことが面倒だとは思ってないですね。
田舎: 描きにくいキャラとかもいるんですか? 動かしにくい、というか。
咲坂: んー、和臣がよくわからないんで……(笑)
なかむら: 和臣がもし現実にいたら「もう気持ち決まってるじゃん!もうバカバカ」って言いたくなります(笑)「違うよ、和臣はお兄ちゃんとは違う」って言いたい(笑)出会ってしまったのが似た境遇である朱里で、お互いを客観視することで自分の気持ちを理解していくという、この二人! 由奈は超絶まっすぐで、まっすぐな子ほどうまくいくっていうのも見ていてわかる。けれども、今このときの気持ちをうまく言えない朱里と和臣のペアには、もどかしくて「……もう!」ってよく思います。
咲坂: 朱里と和臣は似た者同士だからこそ救い合える部分があって。違う境遇の人に何を言われてもやっぱり響きにくいんですよね。「言ってることはわかるんだけど、自分にはできない」っていう思考の癖がついているじゃないですか。似た境遇の二人が出会ってお互いに解決していくっていうのが一番ベストだと思っているので。最初に作った設定メモにも「この二人は悩みのレベルが一緒」って書いてありました。
なかむら: なるほど……! 最近の巻で言うと両親のお話が印象的です。自分が中高生ぐらいの時はお父さんとかお母さんを”親”として見ていので、その時はなんで怒ったり悩んだりしているのかわからなかったけど、ふりふらを読んで「親も子どもとそんなに変わらない」と。お父さんとお母さんもいち人間であって、そこに朱里とか和臣とか理央が巻き込まれていく必要はないし。ふりふらを読んで、家族に対してもけっこういろいろと考えさせられました。
咲坂: 朱里は多分、母親をお母さんだけどお母さんとしてじゃなくて一人の人間として見てあげていて、だから子供でいられないっていう想いがあったんだと思います。母娘の2人だと、お母さんとしての行動だと考えるとクレイジーだけど、友達として喋ると「わかるよ」ってなっちゃう部分もあるから朱里はこうなっていったんだろうなって。
なかむら: 朱里は自分以外の人の気持ちを理解するのめちゃくちゃ早いですもんね。
咲坂: そうですね。顔色を伺う感じ。
なかむら: でもそれは頭のいい行動なんだけど、対称的な由奈がいることで、「あ、朱里は頭がいいんじゃなくて不器用なんだ」ってわかるんですよね。こんなダブルヒロインを描いている作品って珍しいじゃないですか。
田舎: ちょっと失礼な言い方かもしれないんですけど、ダブルヒロインで、朱里に比べて由奈がどっちかというと、あんまり可愛く描かれていないじゃないですか。それが僕はすごく衝撃的だったんですよ。恋愛モノの少女漫画のヒロインって、ちょっと地味で目立たないというキャラ設定であっても、漫画なので絵は可愛く描かれるじゃないですか。僕は少女漫画ばっかり読んで居るからそれが当たり前になっていたんですけど、ふりふらは違うというか、リアルですよね。でも、由奈ちゃんは中身とか言動が可愛いから結局めちゃくちゃ可愛いんですけどね!(笑)
咲坂: でもちょっとだけマイナーチェンジはしていきました。やっぱり可愛く見せなきゃいけないなっていうのは途中で思ったので。最初の方は若干やりすぎました(笑)
田舎: やりすぎていたんですね(笑)
咲坂: そっちの方がよかったんですけど、見てる方が苦しくなるぐらいはやめた方がいいなと思って。
田舎: 苦しくなるほどには思わなかったですよ!人としてすっごく可愛い女の子だけど、今までの咲坂先生が描いてきたヒロインとは少し描き方が違うなって感じました。
▶︎Page.2:作品のキャラの中で1番先生と似てるキャラって? 先生自身のこともたくさん伺いました!次ページ