お待たせしました!
田舎はるみの「漫画家さんインタビュー」のコーナーです!
今回は、愛知県の豊橋市で地域猫を捕獲して不妊手術を行い元に戻す“TNR活動”をしながら、その日々をエッセイ漫画『猫嫌いの家に生まれた猫好きが猫と暮らす絵日記(以下、本文では猫絵日記)』としてマンガ・ノベルサービス『comico』で連載中の、鈴尾粥先生に取材をしてきました!
TNR活動のことや野良猫の実態など、鈴尾先生の漫画を読むまで僕が全然知らなかったことについて、いろいろとお話を聞かせていただきました!
可愛い猫の漫画に癒やされたい方、猫との同居生活に憧れている方、TNRなどのボランティア活動に興味のある方など、いろんな方に読んでほしいです。
このインタビュー記事を通して、みんなが知らないだけで実はこんな世界があるんだよ、ということを少しでもお伝えできればと思います。
【プロフィール情報】
鈴尾 粥
マンガ・ノベルサービス『comico』でエッセイ漫画『猫嫌いの家に生まれた猫好きが猫と暮らす絵日記』を連載中。毎週金曜日更新。
2013年に同作で漫画家デビュー。
単行本1巻『猫絵日記』、2巻『ほしねこ』がPHP文庫より発売中。
現在は50匹の猫と生活をしながら、TNR活動、漫画執筆活動をしている。
『猫絵日記』への想い
『猫絵日記』が生まれたきっかけ
田舎: 先生は元々ブログから猫漫画を始められたそうですが、猫のことを描き始めたのには何かきっかけがあったんですか?
鈴尾: たまたま、ふと「最近、野良猫って捨てられてないけど、どうなってるんだ?」と思ったことが始まりですね。その時は「もうきっと制度も整って、猫は捨てられなくなり殺処分もされていないものなのだろう」と思っていたんですけど、色々調べたところ、未だに自分の住んでいるところでも野良猫はいて、殺処分もされていることを知りまして。「絶対、私以外の人も知らないはずだ!」と思って、なんとか発信できる手段はないのかとブログを始めたのがきっかけですね。
田舎: なるほどなるほど。そこから『comico』で描き始めるまではどういった経緯だったんですか?
鈴尾: 趣味でブログをやっていたんですけど、当時はまだ名前も決まっていなかった『comico』さんから「Web漫画サービスを新しく始めるので描きませんか?」とスカウトいただいて。
田舎: ということは先生は『comico』のサービスが始まった時からいらっしゃったんですか?
鈴尾: そうですそうです。初期メンバーです。当時はこんなに大きくなるとは思っていなかったですね(笑)
田舎: 今では有名な作家さん達もたくさんいらっしゃいますよね。テレビアニメ化やドラマ化された作品もありますし! その頃はまだ Web漫画というのは全然なかったんですか?
鈴尾: 全然でしたね! 漫画を作る時も「縦スクロールのフルカラーで週刊連載」って言われて(笑)私は絵柄が簡単なのでいいんですけど、他の作家さんはもっと大変だと思うから「大丈夫なのかな?」と思ってました。
田舎: 前例がないことをやるってすごいことですよね。
鈴尾: 大変だと思いますよ。絵柄がとても綺麗な作家さんも多いので。
田舎: 先生の漫画の絵もすごく可愛らしいです! 先生の漫画のような、写真と絵を融合させている漫画って珍しいですよね。
鈴尾: 初代の担当さんに「せっかくのフルカラーだし猫たちも可愛いから、写真も使って混ぜて作ってみては」とアドバイスをいただいて、そこから始まった感じですね 。
田舎: そうだったんですね。昔はWebで漫画を描くなんて想像していなかったですよね。
鈴尾: そうですね。やっぱり紙の原稿に描いて出版社に送ったり持ち込みに行ったりっていうイメージがついちゃってたので (笑)ただ当時、ブログの書籍化とかは結構あったので、そういうチャンスがあればいいなという気持ちはありました。
田舎: 確かにブログの書籍化も流行っていましたね!
鈴尾: そうなんです。だから自分にもそういうチャンスがあればいいなと思いながら描いていました。
田舎: 夢が叶ったんですね!
鈴尾: まさか週刊連載の方からお誘いをいただけるとは思いませんでしたけど(笑)
『猫絵日記』で伝えたい思いと読者の方の反応
田舎: 僕、以前猫を飼っていたことがありまして!3人でルームシェアしていた時に、そのうちの1人がもともと飼っていた猫をそのまま連れてきたんです。アビシニアンっていう種類の女の子で。それがきっかけで猫が好きになりまして、先生の本を読んでから今いろんなところでこの漫画を布教してるんですよ!
鈴尾: ありがとうございます!(笑)
田舎: 僕も一読者として、もっと色んな人に読んでほしいって思う作品なんですよね。僕が猫好きっていうのももちろんありますけど、知らないことだらけだったので! TNRという言葉も初めて知りましたし、耳をカットしている理由も作品を読んで初めて知りました。
鈴尾: 私も最初は全然知らなくて。「これは広めなければ!」と思ったんですよね。
田舎: やっぱりそういう気持ちで描かれてるんですね。実際に連載を始めてみて、読者さんに特に伝えたいことはどういうことですか?
鈴尾: 「野良猫ってひなたぼっこして、自由気ままな生活を送ってるように見えるけど、 実際はこうなんだよ」っていうのをお伝えできればっていうのと、強制じゃないですけどもし猫が欲しいと思った時は保健所や保護団体からももらってほしいなっていうのがありますね。
田舎: なるほど。確かにそうですよね。
鈴尾: でも全然自由なんですけどね! ペットショップでこの猫が欲しいとかもあると思いますし。こういう猫との出会い方も選択肢としてあるんだよっていうのを幅広い世代の人に知っていただければ嬉しいです。
田舎: 素晴らしいですね。
鈴尾: 『comico』の読者さんは20代と10代後半の方も多いのでこれからの世代はそういうのが普通になればいいなっていう気持ちはありますね。
田舎: 『猫絵日記』を通して皆さんがそういう気持ちになってくれればいいですよね。先生が活動されている豊橋だけじゃなく、いろんなところで活動は行われているわけですし。
鈴尾: そうですね色んな所でやってますので。
田舎: 『comico』やSNSなど、Webで漫画を公開すると、コメントや読者さんの感想もその場ですぐに知ることができたりすると思いますが、どういうお言葉が多いですか?
鈴尾: 「保護してくれてありがとう」みたいな言葉を言ってきてくださる方が多いです。本当はお礼を言ってもらうのは不思議な感じなんですけどね。「こちらこそ応援してくれてありがとうございます!」って思ってます。
田舎: やっぱり野良猫達を心配されてる方がいっぱいいるんですね。
鈴尾: そうですね。しかもたくさん保護するとなると普通のお宅では限界があるので。我が家も限界はありますけどね(笑) それでも代わりに私にできることが少しでもあればなと。
田舎: なかなかできることではないですし、本当に大変ですよね。
鈴尾: 私も最初はこんなにたくさん保護する予定じゃなかったので(笑)2匹ぐらいがちょうどいいですね。 10匹とかでもうてんやわんやです……。
田舎: 50匹ともなると、本当に想像がつかないです。他にも読者さんからのコメントで嬉しかったお言葉はありますか?
鈴尾: 「『猫絵日記』を読んで野良猫を保護して家で飼うことにしました」 って言ってくださる方が結構多いんですよ!
田舎: うわーーそれは嬉しいですね!
鈴尾: 「ペットショップで買おうと思ったけど、近くに保護団体があったのでそこからもらいました」っていう方もいらっしゃるんですよ。そういうときは、やっぱり描いていてよかったなって思いますね。
『猫絵日記』のプチ裏話
田舎: 漫画を読んで少し気になっていたことがありまして。猫の耳についてなのですが、写真では耳をカットしているのに、絵ではカットしていないのは何か理由があったりするんですか?
鈴尾: あ、それは単純にめんどくさくて(笑) 耳をカットしている猫といない猫がいて、避妊・去勢手術をした猫で、オスは左耳、メスは右耳をカットしてあるんですけど、どの子がカットしていたかを思い出して描き分けるのが大変で。全員耳ありで描いちゃおうという感じですね(笑)
田舎: なるほど!そういうことだったんですね。確かに全部を思い出して描き分けるのは大変ですよね。ちなみに漫画に描くときに注意していることはありますか?
鈴尾: やっぱりこういう活動をしているとどうしても猫側に立つことが多いので、人間が敵になってしまうというか……。中にはとんでもない人がいたりするんですよね。猫に酷いことをしてる人もいますし、地域で猫の事で揉めてる人と話さなきゃいけないので、人間嫌いになってくると言うか……。猫側に立ちすぎると「なんて人間は勝手なんだ!」っていう漫画になってしまうこともあるので、なるべく中立というか、猫側と人間側の中間にいなきゃいけないなと気にはしていますね。
田舎: でも先生のように猫側にも立ってくれる人がいてくれるのは素晴らしいと思いますけどね。作中に出てきたひどい話だと、猫をぐるぐる巻きにしてゴミ箱に捨てたりとか……あれも実際にあったお話ですよね?
鈴尾: あった話です。人に聞いた話なんですけどね。
田舎: 酷いですよね……。
鈴尾: そうですね……。差が激しいですね。本当に自分の家族のように大切に暮らしている人もいれば、それこそまるで害獣のように扱う人もいるので、本当に差が激しいんです……。だからこそ真ん中に立てればと。どっちを攻めすぎるのも違うと思うしなかなか難しいですけどね。
田舎: 他にもこだわっていることはありますか?
鈴尾: どうしても猫が亡くなる話とか重い話とか暗い話にたまになるんですよ。なのでそれを少しでも和らげる絵のタッチというか……ほのぼの感を出して。あとは作者が猫に殴られるとかいうおとぼけを入れて重くなりすぎないように暗くなりすぎないようにしたり。かといって猫と暮らしていると、“死”ってどうしても体験しないといけないことじゃないですか。
田舎: そうですね。
鈴尾: やっぱり猫に意地悪したりする人も絶対存在するわけですし。そこをほのぼのした絵柄と内容でバランスを取れればという感じですかね。
田舎: シリアスなお話とか病気の描写とかもあって、読者として悲しくなることもあるんですけど、気分が落ち過ぎないようにしてくれているんだなっていうのはわかる気がします。
鈴尾: でもたまに内容が辛くて読めないって言われることもありますけどね。もうちょっとマイルドに描けばよかったと思うこともあります。
田舎: なるほど。
鈴尾: ここはちゃんと伝えたいことだって言うのもあるのでなかなか難しいところではありますね。
田舎: そういえば漫画の中で先生が「おっさん」って呼ばれているのはほのぼのした空気を出すための演出でもあるんですか?
©鈴尾粥/comico
鈴尾: あははは(笑)それもあるんですけど、保護活動を始めた当初は 24,5歳だったんですよ 。おばさんと言われるのはちょっとグサッとくるなというか、まだ呼ばれたくないなって(笑)結構男っぽい性格で、「自分おっさんになってきたな」って思うことが結構ありまして。 「これはおっさんと呼んでもらおう」って。
田舎: それで猫におっさんと呼ばせ始めたんですか?
鈴尾: そうです(笑) 本当にリアルの猫達にも「おっちゃんはね」って話しかけてます。最近は「おじさん」じゃなくて「おっちゃん」になったんですけど。
田舎: 一人称を「おっちゃん」で話しかけてるんですか?
鈴尾: はい(笑)
田舎: 何かいいですね、想像したらすごくほのぼのします!
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