【インタビュー】必然的に生まれてしまう狂気を描く……!『君に愛されて痛かった』知るかバカうどん先生の世界を徹底解剖

【インタビュー】必然的に生まれてしまう狂気を描く……!『君に愛されて痛かった』知るかバカうどん先生の世界を徹底解剖
     

漫画と酒と日本語ラップをこよなく愛する人。漫画蔵書5000冊以上。漫画はオールジャンルなんでも読みます。お酒もオールジャンルなんでも飲みます。元よしもと漫画研究部副部長。現在は人生模索中。

   

生々しくて凄惨! だけど今も必ずどこかで起こっているリアルを描いた話題作『君に愛されて痛かった』作者の知るかバカうどん先生。

Twitterを中心に絶大な支持者を抱える先生に、作品のことや先生自身のことを色々と伺ってきました。

担当の『月刊コミックバンチ』編集部、K澤さんにも同席してもらい、いかに漫画作りに心血を注いでいるのかがわかる濃い内容のインタビューとなっております!

※本インタビューで紹介する作品は暴力表現・性的描写が含まれるものとなっております。苦手な方はご注意くださいませ。

 

【プロフィール情報】

知るかバカうどん
成人向け漫画家として2014年2月デビュー。
猟奇的な描写が話題になりがちだが、ただの猟奇物で終わらないこだわり抜いた設定や心理描写で成人向け漫画を普段読まない層からも支持を受ける。
現在は初の一般向け漫画『君に愛されて痛かった』(新潮社)をコミック配信サービス「まんが王国」にて先行配信中。
他の著作に成人向け漫画『ボコボコりんっ!』(メディアックス)がある。

 

『君に愛されて痛かった』のこと

必然が生む悲劇や暴力

河野:  よろしくお願いします。

うどん:  よろしくお願いします。

河野: 先生の『君に愛されて痛かった』を読ませていただいて、とてつもない衝撃を受けました。たくさん伺いたいことはあるのですが……先生はこの作品を啓蒙として描かれているんですか?

うどん:  啓蒙……?それはどういった意味の?

河野: 「世の中にはこういった現実もあるんだよ」っていうのを世に知らせるためといいますか。

うどん: あー……いや、どうなんやろ(笑)啓蒙とは思ってないですね。

河野: そうなんですね。最初はどのような衝動に動かされて描き始めましたか?目を背けたくなるような描写も中にはありましたが……!

うどん:  例えばどこですか?

河野: レイプ描写ですね。僕はレイプ描写がAVとかでも本当に苦手なんです。やっぱり見ていて辛い気持ちになるんですよね。あえて描こうと思った理由を教えてください。

うどん:  なんでなんやろう……。よくあることだからじゃないですかね。

K澤:  基本的にうどん先生の描く漫画は「こんな背景を持ったキャラとこんな背景を持ったキャラが出会って、この状況だったら必然的にこうなってしまうよね」っていうのを描いているんですよ。なのでレイプ描写にしても無理矢理酷いことを描いてやろうと思って描いているわけではないんですよ。

うどん:  それはそうですね。

河野:  無理矢理残酷な事を描いているわけではなく必然を描いていると。

うどん:  世の中には残酷な事って日常にいっぱいあると思うんですよ。コミュニティ内での上手くいかない人間関係とか。例えば、最近の話なんですけど、知り合いが草野球のチームに入ったと聞いたので、ネームが詰まっていた事もあり息抜きがてらその試合を観に行ったんですね。その人は元々野球の強豪校出身でめちゃくちゃ野球が上手いんです。そんな奴が草野球チームに交じると上手すぎて浮いちゃうんですよ。出させすぎると全体のバランスが取れないから控えに回されてました。新人だし控えなんで話振られるわけでもないから、話の輪にも入れずに隅っこでポツンとしてましたね。それを見たときに胸が苦しくなって吐きそうになりましたね~。

河野: 直接的な暴力表現よりもそのような日常に潜む出来事の方がかわいそうだということですね。

うどん:  そうですね。その後その人が試合に出て、凄く鮮やかなヒットを打ったんですよ。そしたら手のひらを返したようにチヤホヤされているのを見て、「なんて人は残酷なんやろう」って思いましたね。なんか泣きそうになりました(笑)

K澤: 今の話はうどん先生の描く漫画にすごく通ずるものがありまして、うどん先生の描く漫画に出てくる目を背けたくなるような直接的な暴力表現だったりレイプ描写などよりも、クラスメイトにハブられたり社会的弱者に対しての世の中の対応の仕方だったり「関係性の中で生まれてしまう避けられない現実」を表現として描いているんですね。

 

©知るかバカうどん/新潮社

 

©知るかバカうどん/新潮社

 

©知るかバカうどん/新潮社

 

©知るかバカうどん/新潮社

 

うどん: うん。かわいそう。

K澤: うどん先生の作品を支持してくれている読者の多くの方はその部分に共感してくれているんだと思います。

河野: 直接的な暴力表現が支持されている訳ではないと。

K澤: そうですね。もちろん暴力的な表現が好きで読んでいる読者の方もいると思いますけども。うどん先生の優先順位として、暴力表現が描きたくて描いているって訳では無いと思います。

うどん: そうですね。

K澤: 少し前にネットで話題になった「警察官をクビになった話(※)」ってご存知ですか?

警察官をクビになった話(https://www.keikubi.com/entry/2018/10/28/175934)

 

河野: はい、ありましたね。ブログ読みました。

K澤: うどん先生の描く漫画と繋がるものがあると思っていまして。あのお話が事実だとすればクラスメイトや教官がやった事はあまりにも酷いと思いますが、やっぱり必然的に生まれてしまった悲劇だと思うんですよ。当然とまでは言いませんが。

うどん: ブログの著者の方はかわいそうだとは思いますが、私はあれは当然やと思います。もちろんクラスメイトや教官がやったことは本当に良くない事ですけど。警察学校なら尚更。

河野: その状況になってしまったら起こってしまう必然ということですか?

うどん: そうですね。本当にかわいそうですけど。

圧倒的なまでのリアリティの秘密

河野: 『君に愛されて痛かった』を描くにあたって事前に下調べなどはされましたか?

うどん: 下調べ……?と言いますと?

河野: 例えば「援助交際」って最近では言葉が変わって「パパ活」って呼ばれるようになったじゃないですか。あとは最近の女子高生のいじめの実態とか。その辺りの部分を下調べをされたのかなって。

うどん: してないですね。

河野: そうなんですね。「これ想像じゃ描けないだろ!」って思ったくらい個人的にすごいリアリティあるなと思ったシーンがあるんですが。

うどん: どこですか?

河野: 番外編で鳴海が先輩に殴られるシーンで、先輩が「今日の俺の顔見りゃイチゴオレの気分だってわかるだろ!」って理不尽な言いがかりで殴るじゃないですか。
僕は年の離れた兄に日常的に暴力をふるわれてきたので「うわー、そうなんだよなー、こんな訳わからんこと言われて殴られるんだよなー」って思って読んでいました。

 

©知るかバカうどん/新潮社

©知るかバカうどん/新潮社

 

うどん: よかった。ありがとうございます。あれは私の友達の話です。友達に言っときますね(笑)

河野: 俺と兄ちゃんのやり取りを見ているかのようでしたよ!(笑)

うどん: お兄さんは誰かにボコられてたんですかね?

河野: よくは知らないですけど、親から聞いた話だと学校でうまくいってなかったらしいですね。多分そのはけ口にされていたというか。

うどん: やっぱりなぁ。悲しい仕組みですね。

河野: その当時ブルーハーツに出会って勇気付けられていたんですけど。でもTRAIN-TRAINの「弱い者達が夕暮れ 更に弱い者をたたく」って部分を聴いて「俺は叩く相手もいないから我慢するしか無いんかな」ってすごく悲しい気分になりましたね。

うどん: 仕方がないんですよね。仕方がないんですけど、変える努力は絶対にしなくちゃいけないっていう。

K澤: 仕方がないからと言って受け入れる訳にはいかないですもんね。うどん先生の描く漫画は誰かの話をベースにしている部分があって。ありもしないイジメだったり暴力を想像で描いている訳ではないんですよ。

河野: 身の周りの人が実際に体験したエピソードが散りばめられているからリアリティがあるんですね。ちなみに先生ご自身の体験も描かれていたりしますか?

うどん: 含まれてはいますね。どことは言わないですけど(笑)

河野: SNSなどで読者さんから「こんな事ありました」みたいな声ってきますか?

うどん: 毎日来ますよ。

河野: やっぱり来るんですね。相談役みたいな感じですか?

うどん: 私はあんまり相談には乗らないですけどね(笑)

河野: その読者さんの声を漫画に描くことはありますか?

うどん: しないですね。漫画にする場合は会いに行きますね。会って直接お話を聞いてから漫画にします。

河野: そういう意味では僕が先程言った下調べや取材はされているんですね。

うどん: そうですね。たしかにそういう意味では、日常的にしている感じだと思います。

K澤: 自分の身の周りの事は全て取材対象って気持ちもありますよね?

うどん:  あー、言われてみればそうですね。

最初はほのぼの漫画を描いていた!?成人向け漫画を描き始めたワケ

河野: 初めて描いた漫画ってどんな漫画ですか?成人向け漫画ですか?

うどん: 最初は普通の漫画ですね。

河野: そうなんですか!でもほのぼのとした漫画ではないですよね?

うどん: いや、ほのぼのとした漫画ですね(笑)

河野: ほのぼのですか!?(笑)正直想像がつかないので差し支えなければどんな漫画だったのか教えてください。

うどん: どんなんやったっけな……(笑)「人はなぜ生きているのか」みたいなニュアンスの事を描いたんですよ。でもそんなんやっぱ売れないんですね。で、売れない事を悩んでいたんですよ。その悩みを某エロ漫画家さんに相談したんです。そしたら「じゃあエロ漫画描けば?」ってアドバイスを受けまして。そのアドバイスを聞いた時に「キモっ!なんでエロ漫画やねん」って言っちゃったんですね。そしたらその某エロ漫画家さんに「やってもいないのに気持ち悪いなんて言うのはあなた間違ってるよ」って言われてしまって。それを聞いて「確かにそうやな。じゃあエロ漫画描いてみよう」ってなりました。

河野: そんな経緯があったんですね!

うどん: 最初に描いたエロ漫画は普通のエロ漫画でしたね。でも世の中にはエロ漫画もいっぱいあるので、やっぱり普通のエロ漫画描いても売れる訳ないんですよ。エロ漫画を描くこと自体は面白かったんですけど売れないし、売れないってことは自分が評価されないってことじゃないですか。それで悩んで「んー、なんか違うな。じゃあ自分の本当に描きたいものは何なんやろう?」って思った時にリョナ(※)やったんですよね。

※リョナとは物理的な暴力や拷問などの苦痛に晒されて苦悶の表情を浮かべたり性的なニュアンスの悲鳴を上げるシチュエーションに対する性的嗜好を指すインターネットスラング

 

河野: 紆余曲折あった訳ですね。

▶︎Page.2:少女漫画から少年誌への転換、連載のウラ話などは次ページをチェック。

 

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