ううっ!そんな…ばかな…! 『ガラスの仮面』の愛すべき脇役・敵役キャラ達

ううっ!そんな…ばかな…! 『ガラスの仮面』の愛すべき脇役・敵役キャラ達
     

サブカルクソ研究者。
英文学・言語学・メディア記号論を専攻。
新聞社を退職後、翻訳補助を通じて総合文化研究に携わるも、中の人がどオタクであった為に、研究対象は漫画、アニメ、ゲーム等に限られる。Twitter→@semiotics_labo

   

少女漫画で歴代2位の累計発行部数5000万部を誇る、『ガラスの仮面』。

誰もが知る大ベストセラー漫画を支えてきたのは言うまでもなく、主人公の北島マヤ、そのライバル・姫川亜弓をはじめとする、魅力的な登場人物達でしょう。
主要なキャラだけでも20人を超え、各章ごとの脇役を含めると50人以上が、1976年からの42年間の長期連載を彩ってきました。

中にはマヤを陥れようとした憎い敵役も居ますが、彼らの存在があったからこそ、マヤの不屈の演技魂に火が付き、天才女優として数々の伝説を残すに至った訳です。

今回は、そんな脇役・敵役の中から、北島マヤの演技の凄さに気が付かなかった、ちょっとだけ残念な人達をご紹介します。

北島マヤの演技力とは

引用元:Comee.net

 

本作の主人公・北島マヤの演技力は、素人の観客に対して幻を見せるほどであり、それは第1章の時点で既に片鱗を見せています。
第9章では、マヤが通う一ツ星学園高校で体育倉庫を借りて一人芝居を始めると、動きや仕草だけで観客にベニスの町並みを思わせ、体育倉庫の中に「無限の広がりを感じる」と証言させるなど、驚異的な演技を披露し空間を支配しました。

 

さて、素人でも幻が見えるという事は、

演劇に携わる劇団員は勿論、

プロの俳優・演出家ともなれば気付いて当然ですよね。

 

しかしながら、作中でプロの肩書を持つ人達は、決してそうではない。

なぜなら、彼らは北島マヤを引き立てる為に生み出された脇役・敵役キャラであり、主人公の才能をそう簡単に認めては面白くありません。
マヤの天才性に薄々気付いていながらも、敢えて他の主要な登場人物にマヤの演技の凄さを指摘させる事で、自分の株を下げ、主人公や主要キャラの株を押し上げる高等テクニックを使用しているのです!

愛すべき脇役・敵役キャラの一覧

小野寺一(演出家)

最初に紹介するのはこの方。
劇団オンディーヌの理事にして、最も著名な演出家・小野寺一氏です。

 

初登場は第1章、月影千草の屋敷にラーメンの出前を届けに来た北島マヤが、月影先生にせがまれて椿姫の演技を再現した場面に立ち会い、こう発言しています。

 

しかしなんだってあんなサエないのをつれてきたんだ?
まるでなっとらんじゃないか。

引用:美内すずえ/プロダクションベルスタジオ『ガラスの仮面』1巻

 

マヤの天才性を月影先生に指摘させ、「ううっ!」となるまでがワンセット。
しかもこの場には、後に紫のバラの人となる大都芸能の社長・速水真澄が同席しており、「小野寺先生もそう思われますか」と相槌を打ったのは見逃せません。

小野寺氏はその後もマヤの演技を否定し続け、早々に善良キャラに転じた速水さんの分まで敵役を買って出てくれており、素人以下の見る目しかないという汚名を1人で着る事になります。

何という勇気でしょうか…!

 

『ガラスの仮面』の作者・美内すずえの公式サイト「オリーブの葉っぱ」には、そんな小野寺氏への評価が誤りである事が明記されています。

 

Q.
ガラスの仮面に出てくる人物で、人並み以上の才能を持った人物はマヤの才能を見抜き、認めていますよね。
でも、小野寺先生はいっこうにマヤの才能を認めるどころか、気づいてもいないように見えます。
小野寺先生は、紅天女の演出をやれるだけの才能をもっているのでしょうか?

A.
君、失敬なことを言っちゃいかんよ。
北島マヤの才能?
あの子が才能あふれる娘だってことは、昔から承知しとるよ。

だからこそ敵にまわったときが恐ろしいのだ、ということがわからんのかね。

不幸なことに、あの娘は月影千草に付いたときから、わしの「敵」にまわった。
あの娘がいるかぎり「紅天女」は、どうにもわしの思い通りにならんのだ。

わしにはわしの思い描く「紅天女」の舞台があってな。
その主役はあの娘ではない。
それだけはたしかだ。

小野寺一

引用:美内すずえ Official Website (https://miuchisuzue.com/plaza/interview-room/onodera/)(最終閲覧日:2018/11/28)

 

公式にネタにされるほどの愛されよう。

やはり小野寺氏は、北島マヤの恐るべき才能に気付いていながら、敢えて月影先生や姫川亜弓に解説役を譲っていたのです。
大和男児たるに相応しいこの奥ゆかしさ、小野寺…おそろしい子…!

劇団オンディーヌの皆さん

続いては、マヤが最初に入団を希望した劇団オンディーヌの皆さん

オンディーヌの演劇練習の見学を許可された初心者のマヤに、お題に挙がった「逃げた小鳥」のパントマイムをするよう無茶振りをします。

 

何よバカみたいに同じ場所につっ立っちゃって
逃げた鳥を追わなきゃいけないってのに
まるででくのぼうじゃない

引用:美内すずえ/プロダクションベルスタジオ『ガラスの仮面』1巻

 

と寄ってたかって揶揄った所に、様子を見ていた姫川亜弓がすかさず指摘。

研究生の1人が「そ、そういえば…」と狼狽えながら、視線の方向だけで鳥の動きが分かる事を的確に解説し、マヤの凄さを余す所なく伝えたばかりか、冷やかし行為に参加した全員が、最初に気付いた亜弓、静止に入ったイケメン男子・桜小路優の見所を作る事で、主要キャラを三方同時に引き立てるという離れ業を演じています。

亜弓曰く、「あなた達はヤジに熱中していて気づかなかっただけ」とありますので、マヤの演技をきちんと拾えるほどの余裕を持ちながら、敢えてその実力を見せなかった事が分かります。

これが演劇の舞台だったとすると、演目『ガラスの仮面』の脇役として完璧な演技をこなし、主役級にスポットを当ててから舞台袖に下がった陰の功労者こそ彼らなのです。
流石は日本一の劇団の皆さんですね…!

沢渡美奈(劇団つきかげ)

主要キャラの中にも、最初は北島マヤの演技を認めなかった人物が居ます。
劇団つきかげ創設時のメンバーの1人、沢渡美奈です。

 

ば、ばかなこといわないで!
あの子に演技的な才能があるとでも思うの?
先生がなぜあの子を奨学生にしたかみんな不思議がってるくらいよ!

引用:美内すずえ/プロダクションベルスタジオ『ガラスの仮面』2巻

 

同じく創設メンバーの水無月さやかにマヤの才能を指摘されると「ううっ!」となり、同期の青木麗春日泰子が間髪を入れずにマヤのフォローを畳みかけ、梯子を外された格好となった美奈は、「そんな…ばかな…」と言葉に詰まるしかありませんでした。

劇団オンディーヌの研究生の大半が指摘されるまで気付かなかったのに、劇団つきかげの主要キャラは美奈を除いてすぐに気付いた事を示すこのシーン。
この時の美奈は、「逃げた小鳥」のパントマイムの現場に居たオンディーヌ研究生(推定50人ほど)全員分の嫌われ役をたった1人で引き継ぐ事で、麗・さやか・泰子の3人に好印象を持たせ、その後のつきかげメンバーが長期連載で40年間レギュラーを張る導線を作ります

同期3人の地位を保持した後は、「先生がなぜあの子を奨学生にしたか、やっとわかったような気がするわ…」と自らも良いお姉さん役に転じますが…。

これはなかなか難しい役柄ですよ。

マヤの敵役に回った人物のうち、現在までに生き残ったキャラは、小野寺一、沢渡美奈、それから「若草物語」でベス役を競った水無月さやかの3人しか居ません。
美奈がちょっとでも引き際を見誤っていたら、連載から早々に退場させられ、全日本演劇コンクール全国大会で「ジーナと5つの青い壺」の舞台セットを壊し、ちり紙交換屋になった2人と同じ運命を辿っていた事でしょう。

彼女がレギュラーの座を獲得するには、まさにこのタイミングで、マヤの演技を認めるしか無かったのです!

星城学園中学演劇部の皆さん

お次はこちら、星城学園の演劇部員の2人組。

北島マヤが転校してきた中学で、全国大会後の第5章、チョイ役で映画に出演したマヤに演劇部の部長が「いい気なものね」とチクリ。
映画の監督に「思わずメガホンをにぎりしめた」と言わしめた熱演を見て、

 

あれくらいの演技ならわたし達演劇部員の方がうまくやれるわよねえ、部長。

引用:美内すずえ/プロダクションベルスタジオ『ガラスの仮面』6巻

 

と部員の1人が豪語します。

そしていざ演劇発表会で演劇部が女王役のマヤと共演すると、「圧倒される……圧倒されるわ……」と演劇部員全員が気を飲まれ、お約束の展開に。
マヤの演技を事前に確認していたにも関わらず、その場では気付かず、ついつい大口を叩いてしまったというのがポイント高いですね。

普段は平凡な千の仮面を持つ少女が、舞台に上がれば別人に変わる、何度も繰り返されるこの漫画の面白さを伝えているのが、この演劇部員に代表される脇役キャラ達です。
『ガラスの仮面』では彼らこそチョイ役に過ぎませんが、1人ひとりが主役の北島マヤを輝かせる実に良い仕事をしており、脇役を使った描写の積み重ねによって『ガラスの仮面』という演目が成り立っている事は、もはや言うまでも無いでしょう。

乙部のりえ(女優)

中盤の敵役・乙部のりえも、北島マヤの演技を事前に観ていながら、その凄さに気付かなかった1人です。

「奇跡の人」ヘレン役でアカデミー助演女優賞を受賞したマヤは、第8章からテレビで活躍するようになり、そこで様々な妨害に遭います。
パイの中にガラスの破片を混ぜられたり、大道具の船のマストが折れて宙吊りになったり、バケツの水を頭から被せられたりと、ほんまテレビ業界は恐ろしいとこやでえ…。

そんな小細工を仕込んでいた黒幕が、本名・田代鈴子こと、のりえでした。
のりえはマヤが得た地位に取って代わるべく、マヤの付き人を買って出て、様々な妨害工作を手引きしながら隙を伺っており、とうとう「シャングリラ」の舞台に穴を開けたマヤの代役を務めあげると、本性を明かしてスターの座に就き、マヤは芸能界を失脚します。

 

『ガラスの仮面』においてのりえの役割は非常に大きく、

・ 姫川亜弓を激怒させ、天才サラブレットたる実力を引き出させる
・ マヤが逆境を跳ね除け、芸能界に復帰するまでのストーリーラインを作る
・ その後の亜弓の心に生まれた黒い感情の伏線となる

と、他のどのキャラよりも、マヤと亜弓の主役級の2人に花を持たせています。

主要キャラ以外で表紙に描かれたのは、ヒースクリフ役の真島良と、この乙部のりえだけ、舞台「カーミラの肖像」で亜弓の天才性を引き出した退場の仕方も絶妙であり、更には第12章での亜弓の心理描写の引き金になった点は特筆に値します。

のりえ…おそろしい子…!

亜弓に敗北した後のエピソードも公式サイトで紹介されていて、

 

いまアルバイトをしながらニューヨークのダンススタジオに通っているの。
いつかミュージカルをやってみたいわ。

乙部のりえ

引用:美内すずえ Official Website (https://miuchisuzue.com/plaza/interview-room/onodera/)(最終閲覧日:2018/11/28)

 

悪徳事務所とは手を切り、独立した事まで伝えられる破格の扱いです。
のりえの番外編を見てみたいですね。

赤目慶(俳優)

乙部のりえ以来、7年ぶりに現れた脇役界の新星が、赤目慶先生です。
「紅天女」の仏師・一心役に抜擢されてからは、あの小野寺氏と常に行動を共にし、小野寺グループの顔として度々登場します。

マヤの動きや表情を読めなかったのもこの先生が久方ぶりで、

 

なんですかなあの子は、行儀の悪い。
おとなしくみてられんのかね。

引用:美内すずえ/プロダクションベルスタジオ『ガラスの仮面』40巻

 

と訝しげに言い捨てた後、亜弓に指摘され「ううっ…!」となるのは1巻からの伝統芸。
指摘されてすぐに気付く辺りは、小野寺氏と同様、見る目は確かなようです。

注目すべきは、赤目先生が登場するまでに空いた年月にあり、この間、『ガラスの仮面』は主人公を貶める役柄をほとんど必要としませんでした。
なぜなら、紅天女候補として先を行く姫川亜弓のもとまで一直線に駆け抜けるストーリーラインになった事で、ライバルが亜弓1人に定まり、他が全く相手にならないように描かれたからです。

 

また、第10章「ふたりの王女」のオーディション以降から大幅な改稿も始まっていて、「忘れられた荒野」から「紅天女」に至るまでに、作者の演劇表現はどんどん極まっていきます。

圧巻だったのは38巻、梅の谷で「紅天女」の役作りを行うシーンで、これまで主要キャラの誰かが長々と説明してくれていたマヤの演技の凄さが、15ページに渡って作画と天女の台詞だけで描かれ、もはや解説役を必要としなくなりました。
劇団一角獣の団長が最後に「こいつは神の登場だぜ…」と短く添えるだけで、亜弓に容易に立ち直れない絶望感を植え付け、続く39巻の冒頭で亜弓の心に初めて黒い感情が芽生えるなど、過去に登場した脇役・敵役キャラを踏み台にした心理描写もばっちり。

赤目先生の台詞が蛇足に思えるほど、今や北島マヤの演技力は説明不要で、長年愛読してきた読者には伝わるようになっているのです。

マヤが凄すぎて、小野寺&赤目先生と組む亜弓がちょっと可哀想ですね…。

まとめ

『ガラスの仮面』の愛すべき脇役・敵役キャラの紹介、いかがでしたか?

この漫画は脇役を使った主役の持ち上げ方が、実際の演劇の役割分担と同じ手順を踏んでおり、脇役が残念な人を敢えて演じる事で、主要なキャラの立ち位置を明確にさせるのが非常に上手く、これこそが長期連載の秘訣であると感じられます。

マヤvs亜弓の宿命の対決からも目が離せませんが、小野寺先生と黒沼先生のどちらが優れた演出家なのか、決着が既に見えていそうな戦いにも楽しみは尽きませんね。

 

 

演劇界に小さな巨人誕生!演劇への熱く激しい想いをもつ北島マヤ。
その小さな小舟が、演劇界幻の名作「紅天女」というゴールに向かい、今荒波の大海に漕ぎ出す。そこでマヤを待ち受ける数々の怪物たち。はたしてマヤはどう戦っていくのだろうか?

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引用元:Comee.net

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