【インタビュー】徹底的にリアルを追求した19世紀イギリスの世界観!『Under the Rose』の作者、船戸明里先生のこだわり

【インタビュー】徹底的にリアルを追求した19世紀イギリスの世界観!『Under the Rose』の作者、船戸明里先生のこだわり
     
元少女漫画大好き芸人。
少女漫画歴22年、生涯で10000冊以上、5000作品以上の少女漫画を読んでいます。
男りぼんっ子です。男目線で少女漫画の魅力を語ります。
   

田舎はるみの漫画家さんインタビュー企画、第19弾!

今回は、19世紀のイギリス(ヴィクトリア朝時代)を舞台とした漫画『Under the Rose』の作者、船戸明里先生にインタビューさせてもらいました!

まるで本当に19世紀イギリスを見てきたのではないかと思ってしまうほどリアルな世界観の裏側には、想像を絶する努力が……!

『Under the Rose』がさらに何倍も楽しめること間違い無しの濃い制作秘話を聞かせて頂きました!

是非ご一読を!

 

【プロフィール情報】

船戸明里
1993年、隔月刊誌「電撃メガドライブ」にてデビュー。
ゲーム原画やゲーム原作のコミカライズなど、イラストレーター・漫画家として幅広く活動している。
ミステリービィストリート2002年12月号より『Under the Rose 冬の物語』を連載開始。
既刊10巻。現在は11巻収録分を電子書店にて先行配信中。

『Under the Rose』のこと

涙無しでは語れない!?壮絶な連載遍歴!

田舎: 今日は『Under the Rose』の話を中心に色々とお話を聞かせていただきたいと思っています。よろしくお願いします。

船戸: よろしくお願いします。

田舎: 先生が現在連載されているのは『Under the Rose』だけですよね?

船戸: そうですね。今は『Under the Rose』1本です。『Under the Rose』は2002年に連載を始めたので16年になります。実は連載の最初の頃は『Under the Rose』以外の仕事を1年に1本は受けるっていうルールを自分に課して、漫画やイラストの仕事も並行して描いていました。

田舎: そうだったんですね。

船戸: でも連載が続いていくにつれ、挿絵を描いていた小説が完結して関わっていたゲームソフトも発売して、いろいろと並行していたお仕事が終わっていって、『Under the Rose』のみになってしまいました。新しい仕事を取りに営業に行かなくなったこともあるのか、周りが「船戸さんは忙しいですよね」っていう空気になってしまって、いつのまにか『Under the Rose』1本になってしまったんですよね(笑)私は全然お仕事募集中なんですけど(笑)

田舎: お忙しい人認定されてしまったんですね(笑)『Under the Rose』は様々な雑誌を移っていっていますよね。その辺りの事を少しお聞かせください。

船戸: 16年もあると色々ありました(笑)『Under the Rose』の前に描いていた『Honey Rose』はエンターブレインさんの月刊漫画雑誌の『ファミ通ブロス』で連載していたんですが、最終回の掲載号を最後に休刊してしまったんです。まだ続きも描きたかったので当時の担当編集さんに相談して『Honey Rose』を持って営業に行ったところ、ちょうど幻冬舎コミックスさんが『ミステリービィストリート』という隔月刊の漫画雑誌を新創刊するというので、『Under the Rose』の新連載はトントン拍子で話が決まりました。連載中に『ミステリービィストリート』は雑誌名と判型が変わって「スピカ」に変更になって、「冬の物語」の章は最終話まで載ったんですけど、スピカはなんとvol.2で休刊してしまいました。

田舎: すごく色々なことがあったんですね!

船戸: これで終わりじゃないんですよ!(笑)

田舎: え!?(笑)

船戸: 新章の連載を続けるにあたってどうしようか悩んでいた時に、幻冬舎コミックスの担当編集さんから、「これからは電子出版の時代が来ますよ!Webで連載しましょう!」と言われたんですね。今考えるとその編集さんはすごく先見の明がある人だったんですけど、その当時まだどこの出版社もWeb連載をやっているところなんてほとんど無くて。2004年ですからね。実際に始めてはみたものの電子書籍に馴染みがない時代だったのでそもそも読者さんがいないっていう……(笑)

田舎: 確かにWeb漫画の市場はここ直近で急激に伸びましたもんね。

船戸: そうなんです。当時としては頑張ったんですよ。誌名が変わったり無料版や有料版などいろいろなシステムの実験場でした。すごく楽しかったです。2004年から2012年まではWebで連載していたんですが、掲載枠の「Webスピカ」が終了してしまったので、同じ幻冬舎コミックスの紙媒体の月刊漫画雑誌「comicスピカ」に移籍しました。でもその「comicスピカ」も2015年に休刊になってしまって(笑)

田舎: うわぁ……(笑)

船戸: そもそも私が幻冬舎コミックスさんに持ち込んだのも『月刊バーズ』に載りたかったからなんですよ。たくさんの好きな作家さんが載っている憧れの雑誌だったんです。なので、掲載誌が休刊して続きはどこで描くかという話を編集さんと相談した時に、今こそここで言わなきゃと思って「『月刊バーズ』で描きたいです!」って、想いを伝えたんです。そしたら願いが叶って『月刊バーズ』に載せてもらえるようになりまして。

田舎: よかったですね! 言ってみるもんですね。

船戸: で、「これでようやく移動せず腰を据えて描けるぞ!」って思っていたら、『月刊バーズ』も休刊しちゃったんですよ!(笑)

田舎: 本当に壮絶な連載遍歴ですね!(笑)

船戸: 『月刊バーズ』の休刊が決まった時は本当にショックでしたねぇ……(笑)今は色々とありまして、雑誌連載の代わりに電子書籍の毎月単話配信で描いています。これからどうなるかはまだわかりませんが(笑)

田舎: たしかに、これまでのことを考えると油断はできないですね(笑)

船戸: しかも私は連載の執筆ペースが遅いくせに分厚い1冊にしたがるので、1冊分のページが溜まるのを待つと更に遅くなって、溜まっても原稿の描き直しをするので、新刊が出るのが遅いんです。最長記録は2年7ヶ月で、あの時はさすがに編集さんと営業さんに叱られました……。

田舎: でも2年7ヶ月も空いても読者さんがついてきてくれるってすごいことですよね……!

船戸: リアルタイムで読んでくださっている読者さんは本当に大変だと思います。色々と移動などを繰り返したので、ついてきてくれている読者さんには感謝しかありませんね。本当にありがたいです。

幼少期から馴染みのあったイギリス文化

田舎: 『Under the Rose』は1冊あたりの読み応えがすごくある作品ですよね。

船戸: ありがとうございます。私は描くのが遅いので、とにかく単行本1冊として読んだ時に忘れられない1冊にしたいんですよ。1冊読んだら1週間は頭の中でグルグル考えていて欲しいと思っています。

田舎: 僕は最初、試し読みで序盤だけ読んだんですが、続きが気になりすぎてすぐさま買って読みました!

船戸: ありがとうございます(笑)序盤を描いたのはもう16年前ですね。私はデビューした時から作風が古いって周りから言われていたんですよ。

田舎: そうなんですか? 僕は古いとは思わなかったですけど。

船戸: 「ちょっと懐かしいタイプの作風だね」って25年前から言われていました(笑)漫画ってその時代によって、画風だったりギャグの魅せ方だったり流行りがあるんです。流行りを取り入れたい気持ちもあるにはあるんですけど、流行りの表現はすぐに古びていくので、若い人にも読んでもらえるように作風が新しすぎず古すぎないように苦心しています。なので古いとは思わないって言ってもらえるのは嬉しいですね。

田舎: 何か影響を受けた作品などはありますか?

船戸: 子供の頃からオタクだったので、影響を受けて私の漫画のベースになったのは間違いなく手塚治虫先生、石ノ森章太郎先生、藤子不二雄先生、高橋留美子先生ですね。

田舎: 一斉を風靡した大御所の先生方ですね。

船戸: そうですね。小さい頃すごくうるさい子供だったんです。なので親が私を黙らせるために、お留守番のご褒美、病院の通院のご褒美と何かあるたびに偉人伝や児童文学や図鑑などの本を与え続けてくれたので、文字通り本の虫でした。

田舎: そうだったんですね! 『Under the Rose』は19世紀のイギリスが舞台ですが、元々イギリスの文化がお好きだったんですか?

船戸: そうですね。大好きですね。

田舎: 19世紀のイギリス文化に関しては何か影響を受けたものはありますか?

船戸: 当時は子供向けの「世界文学全集」が流行っていてどこの家庭にも図書館にもあったので片っ端から読んでいました。収録されている作品のほとんどが19世紀のイギリスが舞台のお話なんですよ(笑)

田舎: なるほど! 幼い頃から19世紀のイギリスの文化が自然と染み付いていたんですね。

船戸: 19世紀のお話だって気づいたのはもう少し経ってからですけどね。あとは私が小さい頃に80代・90代だった近所のお婆ちゃん達は明治時代の人達に育てられていますよね。そのお婆ちゃん達の考え方や教えられたり叱られる内容は、19世紀の文学に出てくる当時の感覚やモラルにとても近くて馴染みがあったんです。

田舎: 本を読んで得た知識だけじゃなく身近にいた人からも活きた話を聞いて学んでいたわけですね!

船戸: もちろん『Under the Rose』を描くにあたって色々調べたりもしますけど、自然に描けている部分もずいぶんありますね。私の親が学生の頃にキリスト教系の学校に通っていたので、家に聖書もあったんですよ。私のオタク気質も合わさって、聖書は黙示録から読みましたね! なんかカッコいいから!(笑)

田舎: あはは(笑)でもわかります(笑)

船戸: 映画でも児童文学でも聖書をベースにしていたり、話の中で聖書ネタってよく出てくるので知っていると面白いんですよ。『Under the Rose』にも聖書は活かされています。あと私、映画も好きなんですよ。神話とかも好きですし。そうすると「あの映画のあの部分の元ネタが知りたい、あの神話のこの部分の解釈を知りたい」っていう欲がどんどん出てきて知識として吸収されていくんですね。だからオタクっぽい性格のおかげで趣味がそのまま『Under the Rose』に活きているんだと思います。

田舎: 趣味が作品にそのまま活きるって素晴らしいことですね!

そこまでやるの!?執念の下調べ!

田舎: 元々染み付いていた部分以外ですと、どのような取材や下調べをされましたか?

船戸: もともと趣味で知っている範囲の19世紀の知識は、漫画に描くとなると全然役に立たなかったので、本や映画や手当たり次第に見て調べました。『Under the Rose』はヴィクトリア朝時代が舞台なんですが、19世紀のイギリスのガイド本を読んでみても明確な年数は書いていないことが多いんです。ヴィクトリア朝時代は約60年間あるんですけど、私が描いている時代設定よりも後の歴史の部分は使えないので、そのガイド本の後ろに載っている参考文献をまた買って調べ直したり。

田舎: 後の歴史の部分は使えない、というのは?

船戸: 例えばマナーや作法についてヴィクトリア朝時代のマナー本を参考に描こうと思っても『Under the Rose』の作中の年代以降に根付いた英国マナーは『Under the Rose』には使えない訳です。なので『Under the Rose』以前のマナー本を探す訳ですけど、あまりにも古くても作中年代の空気が違うのでそのまま使えません。年代に合わせた時代考証の資料探しはいつも苦労しています。

田舎: なるほど、それは凄く大変な作業ですね……。資料で使われている本は英語で書かれているんですか?

船戸: 翻訳本があれば良いのですが、資料が豊富なのはやっぱり本場の英語の本になりますね。ひたすら書き写して翻訳して。中学校の英語の授業みたいな感じです(笑)でも今はネットが発達してくれたおかげでずいぶん楽にはなりましたね。気軽に論文も検索できて本当にありがたいです。10年以上前はネットに上がってる画像も小さかったり画素が粗かったりして資料として使えなかったんです……。なのでその画像の元ネタの本を探してアメリカAmazonで片っ端から買うっていう(笑)

田舎: うわー!(笑)お金も時間もかかりますね!

船戸: 「ヴィクトリア」っていうキーワードで検索して出た本を片っ端から買っていたら、ある日アマゾンから届いた箱の中に全然見覚えのないヴィクトリア時代とは何の関係も無いハードカバーの写真集が入っていたんです……。写真家の名前が「ヴィクトリア」さんだったんですよ(笑)

田舎: えーー!(笑)

船戸: タイトル的にヴィクトリア時代の施設だったり建物が写っていたらいいなって思って買ったのに全く関係なくて。今みたいに商品に詳細が書いていなかったので昔はよくこの手の失敗はしましたね(笑)

田舎: あはは!(笑)さすがに全然関係ない写真集は活かせないですもんね。

船戸: 昔に比べたら今はだいぶ探しやすくはなりました。でもネットの情報自体が間違っている場合もあるので、ネットの情報を鵜呑みにも出来ないんですよ。「この年代の写真なのにこの服はおかしいんじゃないか?」と思って調べてみたらやっぱり間違っていたり。

田舎: えっ、服を見ただけで時代が間違っているか分かるんですか!?

船戸: 全て分かる訳ではないですけど、5年単位くらいならある程度は判別できるようになりましたね。もっとヴィクトリア時代が流行って、色んな人に興味を持って頂いて資料本がたくさん出版されて正しい知識をみんなで共有したいですね! そうすれば私の資料探しも楽になりますし!(笑)

田舎: でも船戸先生はもう相当お詳しいですよね?

船戸: でも必要な事しか調べていないので知識に偏りはあると思うんですよね。まだまだ知らない事がいっぱいあります。知りたがり屋なんですよ(笑)

田舎: わかります。僕も知識欲はすごく強い方だと思うので。

船戸: 連載初期の話なんですけど、「日本ヴィクトリア朝文化研究学会」っていうヴィクトリア朝イギリスについて研究する会があるのをネットで見つけたんですよ。英文学関係の大学の先生方が論文を発表してらっしゃる会なんです。私は工業高校卒で大学にも行ったことがないのでどうしたらいいかわからず、でもどうしても論文が読みたかったので、とりあえずメールで「入りたいです」って送りまして。

田舎: 凄い行動力ですね!

船戸: そしたら返信が来まして「日本ヴィクトリア朝文化研究学会」に入れて頂くことができたんです。入ってみてわかったのは「ヴィクトリア朝」を研究している方は、その中でも特に自分の好きな事を研究しているんですよ。もちろん大学の先生方なので英文学の知識量はすごいんですけど、「ヴィクトリア朝」というジャンルは広大すぎて、先生方にとって興味ないジャンルについては、空白地帯なんです。

田舎: 研究するとなっても範囲もすごく広いですもんね。

船戸: そうなんです。例えば「ヴィクトリア朝時代は猫をどのように飼っていたんですか?当時のガイド本やマナーやルールは?」というような質問をある先生にしたら、「その研究は誰もやっていないからあなたがやりなさい」って言われて、私が調べる事になるんです(笑)

田舎: あはは!(笑)

船戸: 「日本ヴィクトリア朝文化研究学会」では学問の奥の深さを思い知らされました。私なんて本当に趣味の素人です。色んな貴重なお話も伺えましたし、いい経験をさせて頂きました。

田舎: 学会に入ってまで勉強されていたなんて……感服です……!

船戸: ありがとうございます(笑)「日本ヴィクトリア朝文化研究学会」の会長さんにご挨拶させて頂いた時に、『Under the Rose』を読んでくださって「あなたは頑張りましたね。僕の目から見て不自然な点は何もありません」って言葉を頂いた時は本当に嬉しかったですね。

田舎: うわーすごい! 学会の会長様レベルの専門家の方から見ても時代背景がしっかりと描かれているんですね。

 

▶︎Page.2:船戸先生のこだわりやこだわる理由は次ページにて!

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