【インタビュー】『ひとひら』『君の膵臓をたべたい』など話題作の裏側や制作秘話を桐原いづみ先生にお伺いしました!

【インタビュー】『ひとひら』『君の膵臓をたべたい』など話題作の裏側や制作秘話を桐原いづみ先生にお伺いしました!
     
元少女漫画大好き芸人。
少女漫画歴22年、生涯で10000冊以上、5000作品以上の少女漫画を読んでいます。
男りぼんっ子です。男目線で少女漫画の魅力を語ります。
   

田舎はるみの漫画家さんインタビュー企画、第17弾!

今回は、アニメ化もされた『ひとひら』でデビューし、最近では大人気小説『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』のコミカライズをしたことでも話題となった桐原いづみ先生です。

僕は『君の膵臓をたべたい』は小説でもアニメでも映画でもなく桐原先生の漫画から入ったということもあり、お会いするのをずっと楽しみにしていました。

いろいろとお聞きしたいことはたくさんありすぎたのですが、今回は作品の制作秘話などを中心にお話を伺いました。

 

【プロフィール情報】

桐原いづみ
2004年『COMIC HIGH』誌にて『ひとひら』でデビュー。
『ひとひら』はデビュー作にして自身の代表作でもあり、テレビアニメ化や4ヶ国以上の海外向け翻訳版が発売されるなど人気を博す。
住野よる原作『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』のコミカライズでも知られる。

 

デビュー作『ひとひら』について

田舎: 今日は『ひとひら』『君の膵臓をたべたい』などの話を中心に色々聞かせてもらえたらなと思っています。よろしくお願いします。

桐原: よろしくお願いします。

田舎: 桐原先生のデビューは『ひとひら』でしたよね? それ以前にも何か作画活動はされていたんですか?

桐原: 同人活動などはしていましたが、商業誌での漫画デビューは『ひとひら』ですね。

田舎: デビューから即連載ってすごいですよね。

桐原: 運が良かったんだと思いますよ。掲載誌の『COMIC HIGH』が創刊するタイミングだったので、担当さんが作家さんを探してて…当時、双葉社さんで出ていたラグナロクオンラインというゲームのアンソロジーに描かせて頂いていたんですけれど、それを見て声をかけてくださって。二次創作の同人活動はしていましたけどオリジナルの漫画はほとんど描いたことがなかったので、「オリジナルの漫画は初めてなんですけど大丈夫ですか?」って担当編集さんに聞いた覚えがありますね。そしたら「まぁ大丈夫でしょう」って言われて(笑)

田舎: 結構ゆるくスタートした感じなんですね(笑)

桐原: そうですね(笑)でもそれが私にとっては凄く良かったです。いい意味で気楽にやれたというか。『ひとひら』の1話目は8ページしか無いんですけど、担当編集さんと2話目以降の打ち合わせをした時に「今後はこういった展開にしていこうと思います」って伝えたら「じゃあもっとページ数があった方がいいよね」と言われまして。普通はそのあたりのことは連載前に詰めてやるものなんですけど、ゆるく始まったので……(笑)

田舎: そうだったんですね! 僕は雑誌でリアルタイムでは読めていなかったので、単行本の1話目は短いから描き下ろしのプロローグ的な感じなのかなって勝手に思っていました(笑)掲載誌は月刊誌でしたよね?

桐原: 月刊誌ですね。少し変わった雑誌で青年漫画雑誌なんですけど、「男性向け少女漫画誌」というコンセプトで作られた月刊誌だったんです。

田舎: 珍しいですね! 僕は少女漫画が大好きなんですけど、「男性向け少女漫画誌」ってあまり聞いたことが無いです。

桐原: 珍しいですよね。青年向けなのでグラビアとかも普通に載っている雑誌でした。でも半年で休刊になってしまい……(笑)当時の編集長から「なんとか復刊させるから待っていて欲しい」って言われまして。私はまだ駆け出しだったので業界のことはよくわからなかったですけど「(復刊するのは)簡単なことではないだろうな」って思っていました。

田舎: そうですよね。休刊した雑誌が復刊するっていうお話はあまり聞いた事がないです。休刊中は何をされていたんですか?

桐原: 休刊中は他社さんの仕事も受けつつ、同人活動などをしていました。休刊から一年くらい経った頃だったかな? 「復刊する目処が立ちましたので、スケジュールが空いていましたら連載再開をお願いします」と連絡がきて凄く驚きました! それで連載再開の運びとなりました。

田舎: そんな経緯があったんですね!

桐原: また声をかけて頂いてありがたかったですね。一応雑誌名も『COMIC HIGH』から『コミックハイ!』へカタカナ表記に変わりまして。

田舎: 『コミックハイ!』でも「男性向け少女漫画誌」というコンセプトは変わらずですか?

桐原: そうですね。ただ、リニューアル創刊のタイミングで少女漫画色は強くしたみたいです。グラビアは無くなったと思います。男性向け少女漫画誌なので結構混沌とした面白い雑誌でしたね(笑)私には凄く合っているなって思いました。

田舎: どのようなところが合っていると思われたんですか?

桐原: 私の描いているものは絵柄的な意味では萌え系なのかなと自分では思っているんですよ。割合で見ても男性読者さんが凄く多いんです。女の子を描くのが好きですし、私自身が男性的な目線も持っているのかなって。なので「男性向け少女漫画誌」という少し特殊な雑誌は自分に凄く合っているなと思いました。もちろん女性でも楽しめるものを描いているつもりですけどね! 男性からの支持の声も嬉しいですが、普段あまり言われることが無いのでたまに女性から支持の声をいただくと嬉しいですね!

田舎: 確かに『ひとひら』を読んでいると男性目線でヒロインを応援したくなります!

桐原: ありがとうございます。単純に私が可愛い女の子を描くのが好きなんですよ。女の子の可愛さって色々あると思うんですけど、性格的なものとか、仕草とか表情とか、そういうのを描きたい欲求がすごくありまして。ありがたいことに、おそらくその部分が男性にはウケているのかなって思っています。ただ、友人に同じだけの熱量を男性キャラに対して感じないと言われた事があるので、そこが女性読者さんがあまり多くない(かもしれない)理由なのかも知れませんね。あとイケメンが描けない…(笑)

田舎: そんなことないと思いますよ! 甲斐君とか僕はすごくカッコいいなぁと思って読んでました。

役者の経験が活かされている!?

田舎: 『ひとひら』は演劇がテーマですが、桐原先生は演劇がお好きなんですか?

桐原: 私、元々演劇をやっていたんです。大学の時だけですけど。

田舎: 実際にされていたんですね!

桐原: 元々興味はあったので大学の時に始めたんですけど、想像していたよりも面白くて! 役者も裏方もやりました。卒業したら役者ではなく、舞台関係の裏方の仕事に就きたかったくらいです。なんやかんやありまして漫画家になりましたけど(笑)

田舎: 『ひとひら』はその頃の経験が活かされている作品なんですね。

桐原: そうですね。『ひとひら』でも描きましたけど、実際に内部分裂とかもありましたし(笑)「みんなで頑張ろう!」ってなると、やっぱり意見がぶつかることもありますよね。どんなことでもそうだと思いますが、色んな考えの人たちが集まっていますし。その辺りは実体験を参考に描いている部分もあります。練習方法も実際にやっていたことを参考にしてます。

田舎: そうなんですね。僕は演劇にそれほど詳しくないですが、凄くリアルだなと思っていました。

桐原: ありがとうございます。やっぱり経験してるとその辺りの感覚は掴みやすいのかも。当時は本当に必死に描いていましたけど、今読み返すと漫画として未熟な面が多いなぁって思いますね(笑)本当に手探りで描いていました。

デビュー作がアニメ化!その裏側

田舎: そんな手探りの状態で描いたデビュー作がアニメ化も果たされている訳ですよね。

桐原: これも連載を開始した時と同じで運が良かったんですよ(笑)当時『コミックハイ!』で連載していた大島永遠先生の『女子高生Girls-High』のアニメ化が決定したんです。その時に私の担当さんが『ひとひら』のアニメ化もどうかと会議で言ってくれたらしく、そうしたら「いいんじゃない?」みたいなリアクションを頂けたみたいで。本当に色々なタイミングが都合良く合ってアニメ化が決まりましたね。

田舎: タイミングもとても大事ですもんね。でもやっぱり作品の魅力がしっかり評価されたからこそだと思います!

桐原: ありがとうございます。担当さんからは「まぁ期待しないで待ってて」って言われていたので実現は難しいだろうなと思っていました。そしたらトントン拍子に決まっていったみたいで本当に運が良かったです。当時はアニメ業界も凄く盛り上がっていた時期だったと思うので、便乗できたんだと思います(笑)

田舎: アニメ化が決まった時はどんな心境でしたか?

桐原: それはやっぱり嬉しかったですよ! アニメ化なんて本当に考えていなかったですし、当時は単行本の発行部数的にもアニメ化できる程に売れていませんでしたから。本当に色々なタイミングがたまたまピッタリと合ったんだと思います。

田舎: 「いつかアニメ化させてやるぞ!」みたいな野望は前からありましたか?

桐原: そういう夢はもちろん見ますが、そんな余裕もなかったです(笑)雑誌に自分の漫画が載っていることですら恥ずかしくて読めなかったんですから(笑)毎回自分の漫画は飛ばして読んでいました。その事を担当さんに話したところ、「何かミスがあるかもしれませんので必ず読んで確認してください」と言われて、それから嫌々ながらも頑張って読むようになりましたけど(笑)

田舎: そんなに恥ずかしかったんですか!?(笑)

桐原: 同じ雑誌に載っている他の漫画家さんに比べて、経験も何もかもが未熟だなって思っていて。自分の漫画を見ると粗しか見えてこないんですよ。努力しても埋まってない現実を見るのが嫌って言うか…。基本がネガティブ思考なんでしょうね。ずーっとそれが今でも続いています(笑)

田舎: デビュー当時だけではなく、今でも思うんですか?

桐原: 今でも思います(笑)大分軽減されましたけどね。

田舎: えー! 『君の膵臓をたべたい』や『また、同じ夢を見ていた』など最近の作品も読ませてもらいましたけど、めちゃくちゃ綺麗な絵だと思いますよ!

桐原: ありがとうございます。あがき続けた努力が少しは実って来ているんだと思います(笑)

アニメ化が漫画に与えた影響と今でも仲のいい声優さん

田舎: 『ひとひら』がアニメ化したことによってなにか漫画を描く上で影響はありましたか?

桐原: ありましたね。元々『ひとひら』は構成が3巻までしかなかったんですよ。野乃先輩が卒業したら終わりにしようと思っていました。

田舎: そうだったんですか!? 驚きです! 野乃先輩が卒業してからの世代交代は描かないつもりだったんですか?

桐原: あまり考えていなかったですね。野乃先輩が卒業する頃にはは人として一歩踏み出せたなって思っていたので。そこを描ければ話としても綺麗に終われるかなって、そこを目標に描いていたんです。でもアニメ化のお話を頂いた時に「まだ続けてみない?」って言われまして、その先の話を考えてみたら描いてみたいことがまだあったので続けさせてもらいました。

田舎: では当初は麦と甲斐のラブコメ展開は予定していなかったんですか?

桐原: あまり深く考えていなかったですね(笑)野乃先輩が裏主役だと思って描いていたんですよ。3巻までで麦と野乃の主役2人の成長を描けたので、私としては満足したと言うか、当時はそれ以外を考える余裕がなかったと言うか…。

田舎: アニメ化によってそんな影響があったんですね。

桐原: そうですね。もしアニメ化がなくても続けていた可能性はありますけど、アニメ化が私と作品に与えてくれた影響は大きかったんじゃないかなと思います。

田舎: ちなみにアニメは観ていましたか?

桐原: もちろん観ていました! 今でも『ひとひら』をやってくれた声優さんと連絡取ったりしてますよ。 麦役の「樹元オリエ」さん、ちとせ役の「やぶさきえみ」さん、佳代役の「宮川美保」さん、京介役の「大須賀純」さんなど、仲良くさせてもらっています。たまにご飯に行ったり。

田舎: 『ひとひら』が繋いでくれたステキな関係ですね!

『ひとひら』ファンからの最高の報告

田舎: 『ひとひら』を描いていて楽しかったことや嬉しかったことはありますか?

桐原: 「『ひとひら』を読んで演劇を始めました」ってお便りをくれた方が何人かいらっしゃって。それは本当に嬉しかったですね。あとは「『ひとひら』の舞台劇をやっていいですか?」っていう連絡を高校の演劇部の方から頂いたり。舞台劇に関しては著作権の問題などもあるので、私から公式に許可は出せないんですけど、『ひとひら』を舞台化したいと言ってもらえたことは作者として凄く嬉しかったですね。

田舎: うわーそれは嬉しいですよね! 素敵なお話ですね。

桐原: 本当にそうですね。一度同人イベントに中学生くらいの女の子が来てくれたことがありまして。多分その子は凄く緊張していて、声を震わせながら「『ひとひら』を読んで演劇を始めました」って直接言って貰えたことがあって。他にもどれだけ好きなのかとか、ゆっくり頑張って話してくれて、多分凄く勇気を振り絞って直接言いに来てくれたんだろうな……とか、こっちも色々感極まっちゃって(笑)「あぁ、この漫画を描いていて良かったなぁ」って思いました。

田舎: 感動しますね。先生が産み出した作品が誰かの人生に影響を及ぼしたわけですもんね。凄い良い話! 逆に描いていて苦労した部分はありますか?

桐原: 私はプロット、いわゆるお話の主軸を考えるのが苦手なんです。例えば、住野よる先生と取り組ませて頂いた『君の膵臓をたべたい』や『また、同じ夢を見ていた』のコミカライズの場合は、最初から最後までしっかりとしたストーリーが出来ているわけじゃないですか。その場合私のお仕事は、そのお話を漫画として面白くなるよう努力をすることになるわけですけれど、でも自分でお話を考える場合は「この一言をこのキャラが言ったら主人公はどんな返答をするだろう?」とか、考える所がそこからなんですよね。その返答1つで話が変わっていくし、「え、まずその人そんなこと言う?」とかやってるともう時間なくなってる(笑)私は最初に文章でプロットを考えてからネームにして絵に起こすんですけど、ネームにしたら話が全然変わってしまったなんてこともありました(笑)

田舎: そんなこともあるんですね!(笑)

桐原: 私の場合はありましたね(笑)打ち合わせの時に文章のプロットを担当さんにお渡しして、OKが出たらネームに取り掛かるんですけど、出来上がりが全然違う話になってたり(笑)でも最初に作ったプロットよりもネームにした時の方が良くなっている気はするんですよね。

田舎: 面白いお話ですね! もちろん最初のプロットを元にネームを作るようにはするんですよね?

桐原: もちろん! でも文章ではキャラクターが「そうだね」って言っていたシーンでもネームにしたら「あ、このキャラクターはここで『そうだね』って言わないな」とか普通にあって…。細かい修正は当たり前のようにやりますけど、話がまるっと変わった時が一回だけありました。担当さんは面白いって言ってくれたので、多分変更してよかったんだと思います。

田舎: なるほど! キャラクターを文章から絵にする時に命が宿るということですね。

 

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