平成最後に読みたい兼業スーパーマンの悲哀、『中年スーパーマン左江内氏』

平成最後に読みたい兼業スーパーマンの悲哀、『中年スーパーマン左江内氏』
     

ドラえもんを始めとした藤子・F・不二雄作品をこよなく愛する。
大学時代はドラえもんをテーマに論文を書いていた。
歴史・SF系統作品も好むが、基本的にはなんでも読む方。
買ってない漫画は語らないようにしている。

   

日本の漫画文化を大いに盛り上げ支えてきた、いわゆる「トキワ荘メンバー」の作家陣。

なかでも突出した存在(と少なくとも私は考えている)であるのが藤子・F・不二雄氏である。
言わずと知れた国民的作品である『ドラえもん』、その他にも『パーマン』や『エスパー魔美』など、何作品もがアニメ化やドラマ化をされている。

そんな藤子・F・不二雄氏は長期連載ものから1話完結ものまでさまざまな作品を手がけているのだが、そこまで世間的に有名でないものにも名作はたくさんある。

そこで今回は、そんななかでも1巻にまとめられており、また1話完結型となっており読みやすい『中年スーパーマン左江内氏』を皆様にオススメしてみたい。

さえない中年がスーパーマン襲名

大まかなあらすじは、会社でも家庭でも名前のとおり「さえない」存在でしかない、どこにでもいるようなサラリーマンである左江内(さえない)が、ひょんなことからスーパーマンからスーパーマンスーツを受け継ぎ、活躍していくというものである。
このスーパーマンのスーツからは、姿を見た人の記憶を操作する光線のようなものが出ており、スーパーマンとなった左江内氏の活躍は一切人の記憶に残らないことになっている。

先代のスーパーマンもこれまたさえない存在であり、スーパーマンとしての活動に身が入り本業が成り立たなくなった為に、左江内氏がスーパーマンを襲名することになったのだが、これは後に大きな伏線として作品に効いてくることになる。
2017年にドラマ化もされているが、話題になった小泉今日子さん演じる奥さんの恐妻ぶりなどは原作の方では特に描かれておらず、あくまで左江内氏を中心に描かれている。

『ドラえもん』での、のび太のパパなどもそうだが藤子・F・不二雄氏はなんの取り柄もないような一般男性の描き方が非常に上手い。
威厳のある父親像がまだ持て囃されていた時代に、会社でも家族内でも上手くいかず、それでも子供たちに毅然とした態度をしなければならない悩める父親として描かれているのだ。
それゆえに、読み手側としても気持ちが分かるし作品に没入しやすくなる。
この作品も設定自体は突飛だが、一男性としては抱きやすい悩みを同じように抱えている左江内氏への共感が深く自分のことのように感じながら読み進めていける。
作品内の悲喜こもごもに一喜一憂しながら楽しむことが出来るのだ。

納得出来ないことばかり、それでも

左江内氏は良い意味で小市民的である。
会社に遅れそうになるとスーパーマンの服を着て出勤するのだが、それにもいちいち罪悪感を感じていたりするし、家族の前でスーパーマンとして活躍するもその記憶が残らないことを心底悔しがったりもする。

サラリーマンらしく僻地への左遷を心配したり、出世争いに負けたくない気持ちからスーパーマンとしての活動を躊躇したりする。
時には会社の後輩女性から淡い想いを寄せられ、色めきだったりもするが、やはりスーパーマンとして活動していくうちにそれもうまくいかなくなったりする。

強大な力を手に入れようとも、その力に溺れることなく苦悩し、日常に折り合いをつけながら活動していく。
どこか生活に寄り添った生活感、それがこの作品の最大の魅力であるように思える。

まさかの衝撃コラボ

そんな左江内氏も、終盤ではある大物政治家と知り合い、スーパーマンの力を彼のために役立てようとする。
日陰の存在から一転し、その力を日本のために使えるかもしれないという状態になると、今まで大事にしてきた会社や家庭もぞんざいにしてしまうのだが、これもまたうまくいかなくなるのだ。

会社にも通わなくなり、家族ともほとんど連絡を取らない状態になっていた左江内氏は追い込まれる。
スーパーマンとしての正義とは、悪とはなんなのか。
あくまで小市民であった左江内氏にはそれらを考えるのは荷が重く、またふさわしくもなかったのだ。

全てに絶望し、やけになっていた左江内氏の元に現れたのは、別のスーパーマン…もとい、かつてのパーマン4号
このパーマン4号がまた物語の最後にいいアクセントとなるのだが、それは実際に読んでみて確かめて欲しい。

こういったちょっとしたコラボがあるのも、藤子・F・不二雄作品の魅力である。
それも大きく打ち出さず、ちょっとした作用で効かせてくるのだ。

平成の終わりに

主人公が変に覚醒したり、悟りを開いたりもしない。
王道のストーリーとはまた違う、あくまで日常に寄り添った展開、そして登場人物なので、胸が熱くなるようなものはないが安心して読み進められる。
藤子・F・不二雄氏の多くの作品がいまだに色褪せず読まれているのは、そういった理由からなのではないだろうか。

作品が描かれたのは昭和であるが、仕事でも会社でも上手くいかない主人公のサラリーマン感は平成のお父さんたちにも繋がるものがある。
今この平成という時代が終わり、働き方も変わっていく中でこそ、この作品を読んでみていただきたい。

藤子・F・不二雄ファンにも、そうでない人にも読みやすい作品としてまとまったこの作品、是非みなさまにも手にとって欲しいのだ。

なお、藤子・F・不二雄大全集版には、後半部分にこれもまた映画化された『未来の思い出』が収録されている。
漫画家が主人公のこの作品もまた大きな魅力のある物語であるので、併せてご一読していただきたい。

 

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出世とも浮いた話ともまるで無縁な、さえない中年サラリーマン左江内氏は、ある日先代スーパーマンに見込まれスーパースーツをしぶしぶ引き継ぎます。
日常の裏に隠れた、さまざまな人間模様を垣間見ながら、ささやかな希望をみつけ、ときには「正義」に疑問を感じ、思い悩む。
練り上げられた全14話は、どれも「SF・異色短編」に匹敵する深みを持った大人の珠玉のストーリーです。

連載は1977年『週刊漫画アクション』。2017年は誕生40周年にもあたります。
左江内氏は、当時46歳だった藤子・F・不二雄とほぼ同年齢の主人公で、<娘を持つ父親>という立場も共通しています。
「エスパー魔美」、「ドラえもん」の連載も絶好調で、『コロコロコミック』も創刊されたばかりの時期に、読者層をさらにグンと広げた本作は、藤子・F・不二雄が漫画家としてノリにノっていた時期のまさに隠れた名作と言えるでしょう。

 

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