藤子・F・不二雄氏の作品と言えば、皆さんはどんなものを思いつくだろうか。
国民的アニメ『ドラえもん』や、『パーマン』『キテレツ大百科』など多くのアニメ化された作品がある。
しかしそのどれもが、どこか子ども向けの親しみやすい作品である。
藤子・F・不二雄氏といえば児童向け漫画家というイメージを持っている方も多いのではないかと思う。
声を大にして言いたい、「答えはNOである」と!
藤子・F・不二雄氏の魅力はそういった作品にあることはもちろんだがそれだけではない。
大人も唸る、むしろ大人だからこそ夢中になる作品を数多く手がけているのだ。
それが『藤子・F・不二雄SF短編』である。
今回はそういった、一般的に知られているような作品とはまた一味違った藤子・F・不二雄氏作品たちをいくつか紹介していこうと思う。
「SF〜すこし不思議〜」な世界
一般的に知られている「SF」という言葉は「サイエンス・フィクション」の略であり、いわゆる近未来や科学的な背景を持った創作物ジャンルを指す言葉である。
しかし、かつて藤子・F・不二雄氏は「SF」のことを「すこし不思議」の略として用いている、と述べている。
藤子・F・不二雄氏のSF短編の作品はまさに「すこし不思議」な話であり、一般的なSF作品のように宇宙や未来を描いた作品も多いが、日常生活に少しだけ不可解なことが起こる、というような作品もまた多い。
この、遠過ぎず近すぎない描写こそが、藤子・F・不二雄氏のSF短編の魅力なのである。
日常生活の中にうまく溶け込んでいる不思議を切り取る、誰の身にも明日起きるかもしれない、そんなテーマが散りばめられているのだ。
そして宇宙の果ての星や遠い未来を舞台にした話に関しても、家族愛など今の我々にも通じるようなテーマがある。
SFという括りだけで見ると、とっつきにくいような印象を受けるかもしれないが、決してそんなことはない。
むしろSF作品に親しみのない方こそ見てほしい、そんな作品ばかりである。
初期の作品『ミノタウロスの皿』の執筆依頼を受けた時、藤子・F・不二雄氏は、「自分の絵柄だと子供向けである為、SF作品は向いてないのではないか」とも思ったそうである。
しかしそれこそが逆に見事に効いている。
独特の柔らかい絵で描く恐ろしげな話、このアンマッチさが話の魅力、恐怖、そしてすこし不思議をより際立たせているのだ。
またこのSF短編の作品の中には、『エスパー魔美』の原型となった『アン子 大いに怒る』が含まれていたり、『パーマン』でお馴染みの“魔土災炎”が登場する『換身』『倍速』など、藤子・F・不二雄ファンなら思わずニヤリとするような作品もある。
是非それぞれの楽しみ方を見つけながら読んでほしい。
個人的オススメ3選
それでは、数ある作品の中から個人的に是非読んでほしい作品を3つあげてみようと思う。
本当は全て読んでほしいが、まずここから、というような特にオススメできる作品を挙げてみる。
『いけにえ』
主人公は何の変哲も無い浪人生。
受験勉強する彼のところに新聞記者が現れ、地球に飛来した巨大宇宙船からの要求で人類からの生贄に選ばれたと告げられる。
なんとか逃げようとするも政府の人間に捕まり……という話。
設定自体は凝っているものの、何故選ばれたのかも分からないまま、政府に与えられた猶予1日をどう過ごすのかという誰もが向き合う問題について描いている。
それでいてSF的な設定も活きている珠玉の作品。
『ある日……』
映画を撮る同人サークル。
他の人が撮った全ての作品を否定する男の撮った作品は、日常生活を撮った映像が突然途切れるだけ、というものであり、その真意は……。
オチの一コマだけに詰められたメッセージが見事としか言いようがない。
直接的な描写こそ何も無いが、ホラーテイスト作品もある中でも一番ゾッとする作品と言えるだろう。
『倍速』
「暗豚(くらぶた)」とあだ名をつけられるほどにノロマな主人公。
しかしある時、時間を自在に操れる「倍速時計」を手に入れたことから人生が変わり始める。
タイトルの通りスピーディーな展開、そしてこれもまた見事なオチ。
藤子・F・不二雄氏のユーモアが最大限に光る作品である。
先ほども書いたが、“魔土災炎”の登場する作品である為、もしかしたら『パーマン』の後の彼の姿かも……と楽しみ方も広がる作品である。
お願いだからドラマ化して
昨今、漫画作品の実写ドラマ化などが多くなってきている。
中には、無理やり実写化して失敗するような作品も多く見られる。
だからこそ言いたい、このSF短編の作品をドラマ化して欲しいのだ!
映像的に無理のあるものは殆どない、なのに引き込まれる多くの作品、1話分として作るのにちょうどいい内容量。
どれをとっても映像化するのに申し分のないものとなっている。
様々な監督がもし新解釈でこれらの作品を映像化してくれたら…と考えるだけでワクワクする。
関係者の方、もしこの記事見ていたら、本当にお願いします。
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ある日突然、ある町のスーパーマーケットのむすめが、スーパーマンになってしまった。「女の子のくせに、えらいものになってくれたね」と嘆く両親だったが、町内会長がやって来て、「スーパーマンの店と大はやりになるだろう」と言ったことから、両親は大喜び。「がんばってスーパーマンをやりなさい」と言われるものの、むすめは何をしたらいいのかわからず……(第1話)。
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目次
第1話 スーパーさん
第2話 ミノタウロスの皿
第3話 ぼくのロボット
第4話 カイケツ小池さん
第5話 ボノム=底ぬけさん=
第6話 ドジ田ドジ郎の幸運
第7話 じじぬき
第8話 ヒョンヒョロ
第9話 自分会議
第10話 わが子・スーパーマン
第11話 気楽に殺ろうよ
第12話 アチタが見える
第13話 換身
第14話 劇画・オバQ
第15話 イヤなイヤなイヤな奴
引用元:Comee.net